コラム 2020.12.04

運動器のリレーエッセイ「美しい姿勢を保つためには?」吉井智晴 (東京医療学院大学保健医療学部 リハビリテーション学科教授)

 感染予防対策をしながら、街中の人の動きが増えてきました。私は、職業柄思わず他人の姿勢や歩き方を見てしまいますが、綺麗な姿勢の方に、なかなかお目にかかれません。圧倒的に多いのは猫背。背中が丸まり、股関節や膝も曲がって、骨盤は後ろに倒れています。一方、バッグを斜め掛けにしたり、リュックサックを前にかけて、ちょっとお腹を突き出したような姿勢。こちらは胸を張っていて一見いい姿勢のように見えますが、骨盤が前に倒れ、腰が大きく前に弯曲しています。骨盤をしっかり立っている位置に保持するのはなかなか難しいものです。

 ところで、悪い姿勢は現代人だけのものではありません。日本人の姿勢について、いくつか興味深い話があります。もともと農耕民族であるので、体を曲げる姿勢が習慣となった、とか、握手でなくお辞儀をしたり、謙遜を美徳とする文化では胸を張る姿勢は好まれないので自然と背中が丸くなる、とか、明治時代の日本を旅した英国の旅行・探検家イザベラ・ルーシー・バードは、日本人の印象を「がに股で、猫背で」とも表現しています。このように、日本人の姿勢には長い歴史があるようです。

 医学的になぜ悪い姿勢になるかというと、人の姿勢は、重力に逆らって働く「抗重力筋」によって維持されていますので、この筋力が低下するとおのずと姿勢が崩れます。また、厄介なことに、悪い姿勢は、筋肉を使わず体をできるだけ楽にしようとする姿勢でもあります。習慣化されやすく、「楽」を続けるとその悪影響は将来、腰痛、背部痛、肩こりなどとして現れます。

 では、どうしたらよいでしょうか。

 望ましい姿勢とは、真横から見たときに「耳たぶ(耳垂)~肩(肩峰)~股関節(大転子)~膝関節の前部~くるぶしの後方」が一直線になっていることです。望ましい姿勢=見た目にも綺麗な姿勢であることは頭では理解できますが、それを実行するのは容易ではありません。行動変容には何らかの動機付けが必要です。他人から褒めてもらう外的動機づけは有効ではありますが、常時というわけにはいきません。そこで内的動機づけを。私は年齢に抗って「若く」見せようとは思いませんが、「若々しく」いたいと思うことが、自分の悪い姿勢を意識したときに、修正する動機づけになっています。また、日本語でうつむくとは、「鬱に向く」というように心の動きが体を作ります。新型コロナウイルス感染症の終息にはまだ時間がかかりそうでが、心も体も元気で行きたいものです。

文・吉井智晴 (東京医療学院大学保健医療学部 リハビリテーション学科 教授)

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