安静にしておくべき? 腰痛や関節痛など痛みの悪循環を断つために。(神戸学院大学総合リハビリテーション学部 松原貴子先生)
実践編:運動で予防と治療を
慢性疼痛に対しては薬や注射などの治療もありますが、国際的なガイドライン(治療の指針)では運動療法が第一選択の治療法として推奨されています。運動は単に筋肉や関節を強くするだけでなく、脳内で「痛みを和らげる物質(エンドルフィンやエンドカンナビノイド、ドパミンなど)」を分泌し、痛みの神経回路を整える(痛みを抑え込む)作用があることがわかっています。これは「運動誘発性鎮痛」と呼ばれ、“ランナーズ・ハイ”として知られる現象で、誰にでも起こり得る防御反応として科学的に証明されています。

また、予防の観点からも、運動習慣がある人は慢性疼痛になりにくいことが大規模調査で示されています。つまり、運動は「痛みが出てからの治療」だけでなく「痛みを未然に防ぐ手段」にもなるのです。
おすすめの運動は特別なものでなくても構いません。
- ウォーキングや軽いジョギング:週2~3回、10~30分程度から
- ストレッチや体操:朝や入浴後に気持ちよく伸ばす
- 水中運動や自転車こぎなど:関節に優しい運動方法で体力・持久力をつける
大切なのは、「無理をせず、少しずつでも継続すること」です。これが何よりも効果を高めます。

続けるための工夫:生活習慣と合わせて
運動を続けるためには、生活全体を整えることも重要です。
- 睡眠:規則正しい睡眠は、身体の回復と痛みのコントロールに不可欠です。まずは起床時間を一定にすることから始めましょう。
- 栄養:筋肉や骨の合成・修復に作用する必須アミノ酸BCCA(バリン、ロイシン、イソロイシン)や質の高いタンパク質、ビタミンD、カルシウムなどを意識して摂ることで、筋肉や骨の健康を守れます。
- 座りすぎ回避:長時間座りっぱなしにせず、30分~1時間に1度は立ち上がって身体を動かす習慣をつけましょう。
- ストレス管理:深呼吸やマインドフルネス、趣味の時間など、自分に合ったリフレッシュ法を取り入れましょう。
これらを生活の中で、運動と組み合わせることで、「痛みに強い身体と心」をつくることができます。
まとめ
慢性疼痛には「悪循環」があり、その背景には運動不足、睡眠、栄養、ストレスなど日常生活の要素が深く関わっています。運動はその悪循環を断ち切る最も有効な手段であり、予防と治療の両面で役立ちます。特別な運動でなくても構いません。小さな一歩から始め、生活習慣を整えながら継続することで、痛みと上手に付き合い、より健やかな毎日を取り戻すことができます。
PROFILE
松原 貴子(まつばら たかこ)神戸学院大学総合リハビリテーション学部
神戸大学医療技術短期大学部理学療法学科 卒業、医療法人愛仁会千船病院 理学療法士、神戸大学医学部保健学科 助手、神戸大学大学院医学系研究科博士後期課程修了 博士(保健学)、愛知医科大学医学部 客員教授/疼痛緩和外科・いたみセンター 非常勤理学療法士、日本福祉大学健康科学部リハビリテーション学科 准教授/教授、神戸学院大学総合リハビリテーション学部理学療法学科/大学院総合リハビリテーション学研究科 教授
