内臓脂肪を減らすことの大切さ
一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の方の“食”を指導してきた管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)先生による、信頼できる栄養情報を連載でお届けします。
私の職場であるスポーツジムにも、中高年の方を中心に「健康のために痩せたい」、「健康診断の数値が悪く、先生にダイエットを勧められた」、「メタボリックシンドロームと言われた」といった理由で体験に来られる方が多くいらっしゃいます。
今回は、なぜ体重を落とす(特に内臓脂肪を減らす)ことが健康に良いのかについて解説します。
メタボリックシンドロームとは
メタボリックシンドロームは、ウエスト周りが太くなる内臓脂肪型肥満(腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上)を必須条件とし次の3項目のうち2つ以上が該当すると「メタボリックシンドローム」と診断されます。
・高血糖:空腹時血糖110mg/dl以上
・高血圧:収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上
・脂質異常症:中性脂肪150mg/dl以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dl未満
これらは動脈硬化を進行させ、将来的に脳卒中や心筋梗塞のリスクを高める重大な要因です。
内臓脂肪を減らすことが最優先
脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、アディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質を分泌する「内分泌器官」でもあります。
内臓脂肪が増えすぎると、炎症性サイトカインが増加し、
・インスリン抵抗性の悪化(血糖上昇)
・血圧上昇
・脂質代謝の悪化
などが起こりやすくなります。
このような悪影響を及ぼすのは肥大化した内臓脂肪であり、減量によってこれを減らすことが高血糖・高血圧・脂質異常の改善に直結します。
参考:株式会社日経BP「健康診断の結果が悪い人がやってはいけない事」2023年
じつは内臓脂肪は減らしやすい!
内臓脂肪は皮下脂肪に比べて「つきやすいが減りやすい」と言われています。
体重を減らすと、まず優先的に減少するのが内臓脂肪です。
健康診断の数値を改善したい方は、無理のない減量を始めることが最も効果的です。
体重減少の目安
まずは体重の3〜4%減少を目指しましょう!
例:体重80kgの人なら2.5〜3.2kgの減少が目安。
この程度の減量でも、内臓脂肪が優先的に減少するため、血圧・血糖・脂質の改善効果が期待できます。
減量の基本:食事の工夫
体重を1kg減らすためには、約7200kcalのエネルギー赤字が必要です。
例えば3か月で2kg減を目指すなら、1日あたり約160kcal減で十分。
身近な食品のカロリーの例
ご飯1膳(150g)=234㎉
鶏のから揚げ1個(30g)=92㎉
ゆでた鶏ささみ1本(50g)=61㎉
フレンチドレッシング大さじ1杯=49㎉
ポテトチップス1袋(60g)=336㎉
ミルクチョコレート1枚(50g)=275㎉
コーラ350ml=161㎉
参考:「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
例えば「ご飯を少なめにする+ドレッシングを控える」だけでも目標に近づきます。
また「コーラを水やお茶に置き換える」「揚げ物を刺身や蒸したものにする」だけでも同等の効果があります。
大切なのは日々の小さな積み重ねです。
減量の基本:運動の工夫
「早く痩せたい」と無理にハードな運動を始めると、血管に負担がかかることもあります。
・日常生活の中でよく歩く
・WHO推奨は週150分以上の中等度の有酸素運動
・運動中は呼吸を止めず、軽く会話できる程度の強度が目安
飲酒との付き合い方
アルコールは1gあたり7kcalと高カロリーで、「エンプティーカロリー」と呼ばれるように内臓脂肪を蓄積しやすい性質があります。さらに食欲を増進させる作用もあるため、飲酒習慣がある方はお酒の量を見直せるかどうかが減量成功のカギです。
・「お酒はやめられないから」と、他の栄養素を極端に減らすのはNG(筋肉減少・リバウンドの原因に)
・休肝日を設ける・量を少し減らすだけでも数値改善につながる
0か100かで考えず、続けられる範囲で少し減らす工夫をしましょう。
その他の生活習慣も見直そう
運動、食事だけではありません。その他の生活習慣の見直しも大事です。
禁煙:血管の健康維持のために必須
睡眠:睡眠不足は食欲ホルモンを乱し、肥満リスクを高めます
ストレス対策:過食や飲酒に走らない工夫が必要
まとめ
・内臓脂肪を減らすことは、血圧・血糖・脂質の改善に直結
・減量は食事の工夫+無理のない運動+飲酒の見直しが基本
・小さな積み重ねで、健康診断の数値改善や生活習慣病予防につながる
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。