ゴルフ腰痛は「腰を回す」前に体の使い方を見直そう ~整形外科医が教える、スコアにも腰にもやさしい関節別ストレッチ&体幹コントロール~ 【2】腰で回さず、股関節をしなやかに!
腰痛治療&運動療法の第一人者として活躍する整形外科医・松平浩(まつだいら・こう)氏が、医学的・運動学的な視点からスイング改善のポイントを分析。前回は、ゴルフスイングにおける胸椎の役割について解説しました。ジョイントバイジョイント理論で考えると、上体をひねる動きでは、腰椎だけに頼るのではなく、胸椎のしなやかな動きが大切です。
第2回のテーマは「股関節」です。
腰痛治療と運動療法に詳しい整形外科医・松平浩(まつだいら・こう)氏は、腰に不安を抱えるゴルファーほど、胸椎と同じく股関節の動きにも目を向けてほしいと言います。
「ゴルフレッスンでは、『膝の高さを変えない』『腰を左右にスウェーさせない』といったアドバイスを受けることがあります。もちろん、体が大きく上下左右にぶれるのを防ぐうえでは大切な視点です。ただ、それを“下半身を固めて踏ん張ること”だと受け取ってしまうと、股関節本来の自然な動きまで抑え込んでしまうことがあるため、注意が必要です」(松平氏・以下同)
また、特にシニアゴルファーでよく見かけられるのが、太ももの裏側にあるハムストリングスが硬いために骨盤が後ろに引っ張られ、骨盤が後傾し、背中が少し丸まってしまうアドレスです。
「骨盤が後傾した姿勢では、股関節も胸椎もうまく使いにくくなります。すると、スイング時に腰で無理に回そうとして、腰椎に負担がかかりやすくなります」
「さらに、猫背姿勢が長く続いているシニアゴルファーの中には、股関節の前側に詰まり感や硬さがある方も少なくありません。たとえば右打ちの場合、右股関節の動きが悪いと、バックスイングで右側に体重を乗せながら上体を引く動きが不十分になりやすくなります。一方、左股関節の動きが悪いと、フォロースルーで体をしなやかに回しきれない原因になることがあります」

▲ジョイントバイジョイント理論を図解
ジョイントバイジョイント理論で見ると、股関節は胸椎と同様に、モビリティ、つまり可動性を担う部位です。一方で、腰椎は大きくひねるというより、適切なスタビリティ、つまり安定性を保つことが重要な部位です。
そのため、股関節の可動性が不十分だと、骨盤や体幹の回旋がスムーズに行えず、その不足分を腰椎で補おうとしてしまいます。これが、腰痛やスイングの乱れにつながる一因になると考えられます。
また、股関節の動きが悪いと、下半身から体幹、そしてクラブへと力を伝える流れも妨げられやすくなります。単に「柔らかければよい」ということではなく、股関節をしなやかに使いながら、骨盤・体幹・胸椎が協調的に連動することが理想的です。
「股関節の動きがよくなると、骨盤を立てたアドレスをつくりやすくなります。さらに、股関節の前側と後ろ側の両方にしなやかさが出てくると、バックスイングやフォロースルーで体を無理なく使いやすくなり、腰や上半身への負担も分散しやすくなります」
そこで今回は、股関節前面にある腸腰筋と、股関節後面にあるハムストリングスのストレッチを紹介します。前回の胸椎ストレッチと併せて行うことで、胸椎と股関節のモビリティを高め、腰椎に負担を集中させにくい身体の基礎づくりを目指しましょう。
股関節の柔軟性を高めるストレッチ
【股関節前面、腸腰筋ストレッチ】
① 脚を前後に大きく開く。右膝を直角に曲げ、左膝はお尻より後ろにつく。左足のつま先は立てても、寝かせてもよい。
② 背筋を伸ばし、骨盤を正面に向けたまま、腰を前方下にゆっくり下ろす。呼吸を止めずに20秒キープする。これを4回繰り返す。
③ 反対側も同様に行う。股関節の前側や前ももの張りが強い側は、無理のない範囲で少し丁寧に行い、必要に応じて回数を追加する。
ポイントは、腰を反らせすぎないことです。腰ではなく、股関節の前側が伸びる感覚を意識しましょう。
【股関節伸展ストレッチ】の動画はこちら
https://vimeo.com/user66224884/review/1110225362/84947774e4
出典:『コシトレ 動けるカラダにリセットできる攻めストレッチ』(Gakken)
【股関節後面、ハムストリングスストレッチ】

① 椅子に浅く腰かけ、片脚を前に伸ばして、かかとを床につけ、つま先を天井に向ける。
② 背中を丸めず、両手の指を股関節、つまり太ももの付け根に添え、骨盤から前に倒れるように上体をゆっくり前傾させる。呼吸を止めずに20秒キープする。これを4回繰り返す。
③ 反対側も同様に行う。太ももの裏から膝裏にかけて張りが強い側は、無理のない範囲で少し丁寧に行い、必要に応じて回数を追加する。
ポイントは、背中を丸めて無理に前へ倒れようとしないことです。太ももの裏側が心地よく伸びる範囲で行いましょう。
【ハムストリングスストレッチ】の動画はこちら
https://vimeo.com/user66224884/review/1110225606/2525ba0a98
出典:『コシトレ 動けるカラダにリセットできる攻めストレッチ』(Gakken)
股関節モビリティを、スイング動作につなげる
股関節まわりの柔軟性を高めることは、スムーズなスイング動作をつくるうえで大切な土台になります。
ただし、ここで一つ大切なのは、「柔らかくなった=うまく使えるようになった」ではない、ということです。
たとえばストレッチによって股関節の動きが改善しても、実際のスイングのように体重移動を伴いながら、その動きを安定してコントロールできなければ、スムーズで安定したスイングにはつながりにくいと考えられます。
「ゴルフでは、その場で関節を動かせること以上に、動きながら股関節を使えることが重要です。ストレッチで得られた柔軟性を、左右への体重移動やバランスの変化を伴う動きの中で生かしていくことが大切です。そのため近年では、股関節をスムーズに使い、適切な体重移動を身につけるための練習ツールやトレーニングにも注目が集まっています」
つまり、ゴルファーにとって大切なのは、「股関節を柔らかくすること」と、「その動きを実際のスイングの中で使えるようにすること」の両方です。
「こうした、動作の中で発揮できる可動性を、専門的にはファンクショナル・モビリティといいます。股関節のファンクショナル・モビリティが高まると、腰で無理に回すのではなく、股関節から自然に動きをつくる感覚につながりやすくなります」
前回の胸椎、今回の股関節に続き、次回は腰椎の適切な安定性、すなわちファンクショナル・スタビリティを支える「モーターコントロール」という概念について解説します。腰をガチガチに固めるのではなく、必要な筋肉が必要なタイミングで働き、股関節や胸椎の動きと自然に連動する身体の使い方を見ていきましょう。
【告知】NHK Eテレ『きょうの健康』にて、松平浩先生が担当する「“腰痛”
ご関心のある方は、NHK ONE(NHKプラス)での見逃し配信を、
https://www.nhk-book.co.jp/
PROFILE
テーラーメイド腰のクリニック 院長 松平浩(まつだいら こう)
整形外科医・医学博士。順天堂大学医学部卒業。2016〜2023年まで東京大学医学部附属病院22世紀医療センター特任教授として、腰痛治療と研究に従事。腰痛・腰曲がり治療、腰部脊柱管狭窄症、運動療法、姿勢・歩行指導を専門とし、腰に不安を抱えるゴルファーの運動療法やメディカルフィットネスにも取り組む。2018年より「The Best Doctors in Japan」に8年連続選出。
