ダイエットは意思の力ではなく、環境で成功する! 『ナッジ』を熟知して実践してみよう!
一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の方の“食”を指導してきた管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)先生による、信頼できる栄養情報を連載でお届けします。
私の職場であるフィットネスジムの会員さんはダイエットに励んでいる前向きな方が多いのですが、正直に
「家にあるお菓子を食べてしまった」
「家で深酒をしてしまった」
とお話しくださる方も少なくありません。
多くの方が「自分の意志が弱いから続けられない」と言っていますが、私は意志の弱さではなく、環境が整っていないことが最大の原因だと考えています。
そこで活用したいのが「ナッジ」という考え方です。
ナッジとは?
「ナッジ」(nudge=肘で軽くつつく、の意味)は2008年、米国の経済学者リチャード・セイラー教授と法学者キャス・サンスティーン教授によって提唱されました。
ナッジとは、人々を強制したり禁止することなく、望ましい行動を自然に選びやすくする工夫のこと。
例えば、
お菓子を絶対に買ってはいけない🟰強制
お菓子を目に入らない場所にしまう(食べたければ買えばよい)🟰ナッジ
この違いを意識すると、「無理なく続けられる仕組みづくり」が見えてきます。
研究でも、ナッジを導入すると健康的な食事選択が平均15.3%増えることが報告されており、肥満や生活習慣病予防の戦略として注目されています。
ナッジは3つのレベルで活用できる
ダイエットは個人レベルで行われることが多いですが、実際には家庭や職場、社会全体でもナッジが活用されています。
個人レベル
自分の行動環境を整えるナッジ。
例:お菓子を家に置かない/水筒を持参する/小皿を使う
家族・コミュニティレベル
家庭や学校、職場などの小さな社会単位でのナッジ。
例:食卓の真ん中にサラダを置く/学校給食で野菜を先に食べる/社員食堂でヘルシーメニューを目立つ位置に置く
政府・社会レベル
政策や公共空間におけるナッジ。
例:栄養表示の義務化/健康診断通知で受診率を提示/階段に消費カロリー表示/公営ジムの充実化
ジムでの実践例(コミュニティレベル)
私の職場であるフィットネスジムでも、「ナッジ」を活用しています。
ハード面では、
①運動中の心拍数をモニターに表示
②高性能の体組成計を入口に設置
③体組成計の横に「1kgの脂肪模型」を置く
ソフト面では、
①ダイエット希望者のコミュニティを作り、チャットで共有・励まし合う
こうした仕組みによって、一人では継続できなかった方も、仲間と一緒に「頑張れる環境」を整えることでダイエット成功に近づいています。
実は、所属するジムでは、「ダイエットチャレンジ」と題して、挑戦者を募り、3ヶ月間に目標とする数字(体脂肪率や筋肉量など)を掲げてもらっています。そして、そのほとんどの人が目標に近い数字を達成している状況なんです。私自身もこの効果に驚いているくらいです。
ダイエット環境を整えるナッジの実践例
○お菓子を家に置かない→見えない=食べない。買う習慣が消える。
○お酒を冷やしておかない→すぐに飲めない状態にするだけで摂取量が減る。
○体重計を風呂場に置く→測定のハードルを下げ、体重管理を習慣化。
○スマートウォッチで消費カロリーを見える化→数字が行動を後押しし、運動意欲が高まる。
○水筒を持参する→喉が渇いたときにジュースを選ぶ機会が減る。
○冷蔵庫の一番前に野菜を置く→見える=食べる。野菜摂取量が自然とアップ。
○小さなお茶碗を使う→見た目の満足感が増え、炭水化物の食べすぎ防止につながる。
なぜナッジは効くのか?
行動心理学では「人は目に入りやすいもの・手に取りやすいものを選びやすい」と言われています。
つまり「環境の工夫」こそが行動を左右する大きな要因です。
多くの人が「頑張るぞ!」と意志の力でダイエットを始めますが、続かないのは環境が味方になっていないから。ナッジを取り入れることで、無理なく自然に望ましい習慣へ近づけます。
まとめ
・ダイエットは「意志の力」よりも「環境づくり」が成功のカギ
・ナッジは「禁止」ではなく「選びやすさを変える」工夫
・お菓子を置かない/水筒を持つ/小皿を使うなど、小さな工夫から始めよう
今日からできる一歩として、家の中にあるお酒やお菓子の場所や量を工夫してみませんか?
小さなナッジが、未来の大きな成果につながります。
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。