コラム 2021.12.01

亜鉛不足で体はどうなるの?「亜鉛欠乏症」が“文明病”と言われるワケ

亜鉛欠乏症は文明病

 そしてもう一つ、倉澤先生が指摘するのは、我々が普段から飲んでいるさまざまな薬。これらも場合によっては亜鉛不足の大きな要因の一つになるそう。亜鉛は「キレート」されやすい物質。キレート作用とは、化学物質が金属イオンを包み込むかたちで結合すること。ここでは亜鉛の吸収を抑制する作用のことを指しています。

 例えば、亜鉛を摂取後に別の薬剤の成分が体内と亜鉛が腸管内や体内でキレート結合を起こせば、それぞれ吸収障害や不活性化を引き起こします。これではいくら意識して亜鉛を摂っても、意味がないことになりますよね。

「特に高脂血症や高血圧の薬などには、亜鉛がキレートを起こす成分が多く含まれています。慢性疾患を多く抱える高齢者の場合、複数種の薬を服用していることもザラなので、知らずしらずのうちに亜鉛欠乏症に陥っている、ということも珍しくないのです」

 ちなみに、亜鉛欠乏症は高齢者だけの問題ではありません。若い世代では、女子高生〜女子大生の亜鉛不足による味覚障害が増加しているとのこと。これは主に体型維持のための過度な節食が要因と見られています。

「亜鉛欠乏症は日本の国民病だとよく言われますが、農業・畜産業などの状況を考えれば、地球規模の問題も透けて見えてきます。本音で言えば“文明病”と言っても大げさではないかもしれません」と倉澤先生。

 年齢・性別を問わず、誰にでも起こりうる亜鉛欠乏症。最近、妙に体がダルい、食事が美味しく感じられない、虫刺されの跡がなかなか治らない、舌に違和感がある――日々の生活のなかで、自身や家族の体にこうした亜鉛欠乏症の疑いが出てきたら、すぐに専門医に相談しましょう。

(取材・文◎田代智久)

お話を伺った人

倉澤隆平(くらさわ・りゅうへい)さん

1937年長野県生まれ。東京大学医学部卒業後、1970年から佐久市立国保浅間総合病院外科医長を経て、85〜95年まで同院院長を務める。2000年より北御牧村温泉診療所所長を務める中で、村民に亜鉛欠乏症が多いことに気づき、03年に村民の血清亜鉛濃度値の調査を実施、村民が全体として亜鉛不足であることを発見。05年にはさらに大規模な調査を行った。現在、東御市立みまき温泉診療所顧問。日本亜鉛栄養治療研究会顧問などを務める。近著に『亜鉛欠乏症』(三恵社) がある。

 

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