コラム 2022.03.04

片脚のコウノトリを救え! 義肢装具士が挑んだ日本初の義足プロジェクト

 コウノトリの義足作りが始まった

 しかし義肢装具士とはいえ、川上さんにも大型鳥類の義足作りの経験はない。手始めに健康なコウノトリを観察したり、骨標本などを参考に運動器の仕みを学び、21年3月末から製作を開始。まずはコウノトリの脚を採寸し、石膏で型取りして仮義足を試作していった。

「コウノトリの脚には筋肉や靱帯などの軟部組織がなく、太さもヒトの指ほどしかありません。接合部をどう作るか、かなり悩みました」と川上さん。試行錯誤の末、軟部組織の代わりになるよう、異なる素材を使った二重構造のソフトインサート(接合部)を用意してプラスチックカバーで覆い、脚の部分は軽くて丈夫なつっぱり棒を転用した。

「義足で大事なのは、装着して痛みがないこと。ヒトと違ってコウノトリとは意思疎通ができないのが心配でしたが、違和感があると嘴を鳴らしたり、軽くついばんできたり、意外と感情表現が豊かなんだとわかりました(笑)」

 その後も、コウノトリの脚の変化に合わせてソケットのデザインなどを調整しながら4~5本の義足を製作し、コウノトリのリハビリをサポートした。

コウノトリの義足作りのために採寸をする川上さん

 

「義足を着けたコウノトリは、足根間関節が拘縮してしまっていたので、残念ながら歩行はできなかったのですが、左脚の義足に体重を預け、右脚を踏み出せるようにはなりました。コウノトリは寝るときも立ったまま。右脚1本だけに大きな負担がかかっていたので、ホッとしました。初めて一歩を踏み出した瞬間は、思わず涙があふれましたね」

 川上さんらは月に1度、兵庫県立コウノトリの郷公園に通って経過観察を続けていた。しかし、コウノトリは再び衰弱していき、2021年10月31日に呼吸器系の感染症が原因で死亡してしまう。「見に行くたびに弱っていきました。義足のせいで死んだわけではありませんが、やっぱりショックは大きかったです。そもそも本当に義足がコウノトリのためになったのか、本当は嫌がっていたんじゃないか、などと自問自答しましたね」

 それでも新たな年を迎えたいま、川上さんはコウノトリの義足作りの経験を活かし、昔からの夢である体の一部を失った動物の手助けがしたい、との思いを強くしているそうだ。さらに最近、兵庫県立コウノトリの郷公園と、川上さんが教鞭をとる神戸医療福祉専門学校三田校が提携し、共同でコウノトリのサポートを行うプロジェクトの話も持ち上がっているという。川上さんたちの挑戦は、これからも続いていきそうだ。

(取材・文◎裃トオル)

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