インタビュー 2022.03.03

気鋭の写真家・越智貴雄が義足の人を撮る理由。

今回のゲストは、写真家・越智貴雄さん。昨年開催された東京パラリンピックでは義肢を装着したり、車いすを使用したアスリートたちの活躍ぶりに世界中が熱狂しました。今回は、そんなパラスポーツの最前線で写真を撮り続ける越智さんに、写真との出合いやパラアスリートたちを撮影する理由と魅力についてお話を伺いました。

越智貴雄さん

おち・たかお/1979年大阪生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。2000年からパラスポーツの取材を始める。2004年、パラスポーツの情報サイト「カンパラプレス」を立ち上げる。2014年に義足女性たちにフォーカスした写真集『切断ヴィーナス』を出版し話題に。翌2015年には義足の女性たちによるファッションショーを開催。2021年に『切断ヴィーナス2』を上梓。現在、毎日新聞でパラスポーツにまつわるコラムを連載中。そのほかTV・ラジオへの出演も多数。

パラリンピックとの出会い

 僕は今年43歳。写真家として活動し始めて22年になります。パラスポーツとの出合いは大学生の時。シドニーオリンピックを撮影するためにオーストラリアに行ったのがきっかけでした。

 僕が通っていたのは大阪芸術大学の写真学科で、当時の恩師は昔オリンピックを撮影した経験のある元・報道カメラマンでした。その影響もあり、2000年のシドニー五輪をどうしても撮影してみたくなったんです。そこで結婚式の撮影のアルバイトで資金を貯め、大学を1年間休学して留学。現地では語学学校で英語を勉強しながら、日本のメディアの支局などに「シドニー大会の写真を撮らせてほしい」と積極的に売り込みをかけました。

 結果、開催直前になって、ようやくある新聞社から写真と文章の仕事をいただくことができました。飛び上がるほど嬉しかったですね。オリンピック期間中は、熱気あふれる会場の雰囲気はもちろん、柔道の谷亮子さんやマラソンの高橋尚子さんらが金メダルを獲得する瞬間など、貴重な写真をたくさん撮影することができました。

 で、オリンピックが終わり、帰国準備をしていたところ、同じ新聞社から「続けてパラリンピックも取材してほしい」と連絡があったんです。シドニーに残れることが嬉しくて二つ返事で引き受けたんですが、開催が近づくにつれ、不安ばかりが募りました。当時21歳でしたが、パラリンピックの内容や競技について何一つ知らなかったですし、それまで障がいのある人と触れ合った経験もありませんでた。そもそも障がい者にカメラを向けるのは失礼で不謹慎なことじゃないのか? なんて考えたりして。

 ところが、開会式でパラアスリートたちが入場してくると、そんな心配は一気に吹き飛びました。車いすの人も視覚障がいがある人も、みんな弾けるような笑顔で入場してきて。なかには松葉杖を放り出して会場の音楽に合わせてダンスし始める人も。競技となれば、義足で100mを10秒台で駆け抜ける選手たちや、激しくぶつかり合う車いすバスケットボールの迫力に度肝を抜かれました。

「かわいそう」とか「手助けが必要」なんて先入観は消え、いろんな競技を撮影しながら、僕はパラリンピックの魅力を多くの人に伝えたい、と思うようになりました。結局、この2000年のシドニー大会に始まり、昨年の東京オリパラまで、計11の大会で撮影し続けてきました。

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