コラム 2023.02.24

スマホのせいで腰痛、肩こりが起きている。悪い姿勢が続けば将来、寝たきりになる可能性も!

 

電車内を見回すと、スマートフォンを見ている人がとても多いですよね。むしろスマホを見ていない人の方が少ないくらいです。実際、2022年の調査では日本人のスマホ利用率は94%(※1)。たった10年前の2010年には4.4%だったので、スマホが一気に普及していることがわかります。確かに便利なアイテムには違いないのですが、このスマホ利用によるさまざまな社会問題や健康問題が起きているのも事実。そこで、今回は、スマホ姿勢と体の痛みについて、早稲田大学スポーツ科学学術院・金岡恒治先生に教えていただきました。

※1 NTTドコモ モバイル社会研究所が2022.1月に実施した調査より

早稲田大学スポーツ科学学術院 教授

金岡恒治さん

筑波大学講師を務めた後に2007年から早稲田大学でスポーツ医学の教育・研究にたずさわる。シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクターを務め、ロンドン五輪にはJOC本部ドクターとして帯同した。アスリートの腰痛予防研究に従事しており、体幹深部筋研究の第一人者。著書に『首・肩・腕の痛み、痺れ 自力で克服! 1分間ほぐし大全』(文響堂)がある

スマホを見るときの悪い姿勢とは?

 皆さんはスマホを使うときに、姿勢に気をつけていますか? 

 実は、意識していないとどうしても下の図の右側の「POOR」のようになってしまいがちなんです。

「POOR」の様な背中が丸まった姿勢になっている時には、頭を支えるために「僧帽筋」の上部に負担がかかることで筋肉の使いすぎによるこりや痛みとして肩こりが起きます。また背中が丸まった姿勢をとっている時には重心が前方へ移動しているため、前に倒れないように上体を後ろへ引っ張るために背骨を支える「脊柱起立筋」の活動も高まって、この筋肉の使いすぎによる腰痛を引き起こします。

 さらにこの様な姿勢を日常的にとっていると、体の重心が前に移動しているので背骨の前方の椎体への荷重負荷が増えてしまい、骨粗鬆症で骨が弱くなっている人は脊椎圧迫骨折を起こしてしまいます。

 もし骨折が起きると背骨は後ろに曲がってしまい、そのため重心はさらに前に移動して、2足ではバランスを取ることができなくなって杖を使わないと歩けなくなり3本足歩行になってしまいます。またさらにひどくなると頭を支えることすら難しくなり頭が前に垂れてしまって“首下がり”になって前を向いて歩くことすらできなくなり、最終的には歩行ができない寝たきり状態に進んでいってしまいます。

 こうならないようにするためには、上の図の左側「GOOD」のように首の骨についているインナーマッスルである「頚長筋」を使って顎を引き、肩甲骨内側にある肩甲骨の位置を調整する「菱形筋」を使って肩甲骨を背骨に近づけて上肢の重みを後ろに持っていきましょう。

 私たちの研究ではスマホを使う時に顎を引いて肩甲骨を寄せる良い姿勢をとると「菱形筋」が働き、頭が前に突き出して背中の丸まった悪い姿勢をとると腰の「脊柱起立筋」の活動が高まること(Adachi Gほか, 2020)が明らかにされています。

 さらには体幹のインナーマッスルである「腹横筋」と「多裂筋」をうまく使って骨盤の傾きを最適な状態に調整して、背骨を支える筋肉にできるだけ負担をかけない良い姿勢を取れる様にします。こうすることで図の右側の姿勢を変えることができる様になって、寝たきりや要介護状態になることが防げると考えられます。

 このように背骨を良い姿勢に保つためには背骨に直接付着しているインナーマッスルをうまく使うことが必要なのですが、やみくもにたくさん歩いたり、きつい筋トレやストレッチを行うだけではいつまで経っても上手な筋肉の使い方は身につきません。インナーマッスルをうまく使えるようにするためにはヨガやピラティスなどのエクササイズで行われている不安定な姿勢でバランスをとったり、背骨を一つ一つ動かすことを意識する「モーターコントロールエクササイズ」と呼ばれる方法がおすすめです。

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