疾患ナビ 2021.08.28

「股関節が痛い!」40〜50代女性に多い変形性股関節症の症状と治療法について

歩く度に脚の付け根あたりに違和感があったり、痛みが出たり。この原因は、主に変形性股関節症です。とくに40〜50代の女性が、こうした症状を感じて受診する人が多いといわれます。今回は、変形性股関節症に詳しい整形外科医・園畑素樹さんに解説してもらいます。

園畑素樹さん(佐賀大学医学部整形外科 准教授) 運動器の健康・日本協会 運動器疼痛対策事業運営委員

 

大きな負荷がかかる股関節

 股関節の特徴は、専門的には「球関節」といわれる形にあります。野球の球と同じ意味で、まん丸という言う意味です。球関節の代表は、肩関節と股関節です(図1)。どちらも、真ん丸の関節ですので動く範囲がとても広くなっています。また、股関節は立っている・歩いているときにとても大きな重みがかかります。歩いているときは、体重の3~4倍の重さが股関節にかかります。そのため股関節は、軽微な障害でも強い痛みと動きの制限が生じやすくなっています。

図1 股関節の特徴「球関節」

『股関節」は野球の球のように丸い形をしている

 

股関節の痛み

「股関節が痛い」という悩みを抱えて医療機関を受診される方は比較的多くいらっしゃいます。最も典型的な痛みの場所は鼠径部ですが、患者さんが痛いといわれる場所は臀部、鼡径部、臀部と鼡径部の間の外側などけっこうバラバラです。股関節疾患ではいろいろな場所に痛みが生じるため、股関節疾患の痛みが坐骨神経痛として治療されていることも少なくありません。また、股関節疾患は膝の少し上の場所に痛みを生じさせることもあります。

 では、痛みの性格はどうでしょうか。股関節疾患の代表である変形性股関節症の場合、初期には、長く歩いたりした後などに、だるい・重いなどの違和感を自覚します。進行してくると、初動時痛と言って、立ち上がってからの1歩目や車を降りてからの1歩目が痛くて踏み出せないといった症状がでてきます。最もひどい症状としては、じっとしていても痛い、痛くて眠れないといった安静時痛というものがでてきます。安静時痛は、股関節の炎症が強くなり水がたまったときに出てくるといわれています。膝と違い、股関節は水が溜まっても表面からはわかりにくいので外見での診断は難しいです。

 これらの痛みは、ずっと同じ程度で続くわけではありません。多くの方は、数週間もしくは数か月単位で痛みが軽くなったり、強くなったりを繰り返します。痛みが軽くなったからといって、関節の損傷が良くなったわけではないので、痛みの消長を繰り返しながら病状は進行していくことが多いです。

変形性股関節症の原因

 股関節の疾患は、幼児、小児期、若年成人、壮年、高齢者と幅広い年齢層に生じます。もちろん、年齢層によって疾患は異なります。変形性股関節症は様々な原因で発症します。特発性といわれる、特に原因となる疾患がなくて変形性股関節症となる場合もありますが、骨折、大腿骨頭壊死症、ペルテス病などの疾患が原因で変形性股関節症を発症する場合もあります。

 日本国内でもっとも多いのは、股関節形成不全症が原因で変形性股関節症になるパターンです。日本国内で?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、股関節疾患は、人種、民族、性別によってその頻度が大きく変わります。日本国内の80%以上は股関節形成不全症が原因です(海外では違います)。股関節形成不全とは、股関節の骨盤側のかぶさりが不十分である状態のことです(図2)。そのため、前述したような体重の3~4倍の負荷を支える範囲が狭くなり、年齢とともに骨・軟骨が損傷されます。40~50歳ごろに股関節の痛みを感じて医療機関を受診される患者さんが多いようです。ちなみに、股関節形成不全の多くは女性であり、その結果としての変形性股関節症も女性が多くなっています。

図2:股関節形成不全の状態

 

赤い部分が「荷重部」
屋根のかぶりが小さい(中等度)
屋根のかぶりが小さい(高度)

 

変形性股関節症に対する治療

 保存治療として、運動療法や薬物療法があります。運動は、ある特定の運動が推奨されているわけではなく、有酸素運動、ストレッチ、筋トレなど、どの運動であっても一定の効果があります。痛みが増強しない運動を選択するのが良いと思います。薬物療法も有効です。医療機関で処方される鎮痛剤はどれも効果があります。ただし、どの鎮痛剤もすべての患者さんに同じ効果があるわけではないので、ご自身に合う鎮痛剤を主治医と相談して選ぶ必要があります。保存治療で重要なことは、あくまで一時的な痛みの軽減効果しかないという点です。保存治療で変形した股関節が正常になることはありません。

 次に手術です。手術は主なものとして3種類あります。股関節鏡(内視鏡による手術)、骨切り術(骨の形を変える手術)(図3)、人工股関節です。術式は変形の程度と、患者さんの年齢・生活様式で選択されます。股関節鏡と骨切り術は、自分の関節を温存できる手術ですが、適応となる変形の程度、年齢などが限られていますのでそのタイミングを逃さないようにすることが大切です。

図3骨切り術(屋根を大きくする手術)

赤い点線の屋根の部分を大きくする

 人工股関節(図4)はその器械と手術方法の発達により、幅広い年齢に行われるようになってきました。プロゴルファーをはじめ、プロスポーツ選手のなかにも人工股関節の手術を受けられて方もいらっしゃいますので、術後の生活の制限はかなり小さくなってきたといえます。

図4:人工関節

図4:人工関節のレントゲン画像

 

 

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