脂肪にまつわるウソとホント
一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の方の“食”を指導してきた、管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)先生による、信頼できる食の情報を連載でお届けします。
Q1:運動をしないと筋肉が脂肪に変わる。ウソ・ホント
ウソです。
「筋肉が脂肪に変わった」という言い回しを耳にしますが、これは間違いです。筋肉と脂肪はまったく別の組織で、“変身”することはありません。
たとえば、運動をやめて筋肉量が減り、代わりに食べすぎや活動量の低下によって脂肪が増えると、「筋肉が脂肪に変わったように見える」だけのこと。逆に、脂肪を減らして筋肉をつければ「脂肪が筋肉になったように感じる」かもしれませんが、それも同様で、脂肪が筋肉に変わることはありません。
繰り返しますが、“筋肉↔️脂肪”という組織の移動は一切ないということです。
しかしながら、“運動量を増やし食事内容の改善をする”ことで、結果的に「筋肉が増え、脂肪が減る」という現象はあります。反対に、“運動量が減り、食事内容を変えない”と、結果的に「筋肉が減り、脂肪が増える」という現象もあるわけです。
健康面から言って大事なことは、とくに脂肪量が多い方は、「筋肉量を守りながら(または増やしながら)脂肪量を減らす」こと。これが、健康的で見た目にも引き締まった体をつくることにつながります。そのためには運動量を増やし、食事内容を改善すること、これに尽きるのです。
Q2:体脂肪が少ないほど運動パフォーマンスが上がる。ウソ・ホント
ウソです。
体脂肪が少なくても、運動に必要なエネルギー源や栄養が足りなければ、パフォーマンスは上がりません。
人間の体を車に例えると、軽量で燃費の良い車(=体脂肪が少ない)でも、ガソリン(=栄養)がなければレースを完走できないですよね。
パフォーマンス向上において最も大切なのは、運動に必要なエネルギーと栄養をしっかり摂ることなんです。また、体脂肪はスポーツにおけるオン・オフのシーズンに関わらず、大きく増減させないように維持するのが理想です。
急激な体脂肪減少はホルモンバランスを崩し、月経異常・集中力低下・骨折リスクの増加なども引き起こします。またスポーツにおいては、試合だけでなく日々の練習が重要ですから、あまり体脂肪や体重の増減幅を大きくしないことが競技力向上に重要なのです。
ただし、体脂肪率が低い方が有利な競技(体操、マラソン、ボクシングなど)もあります。その選手の体脂肪の調整(減量)は、専門家の指導のもとで段階的に行うのが基本です。
また、ラグビーやアメフトのように体格が求められる競技では、体脂肪を減らすことで筋肉も減ってしまい、逆効果になることがあります。こちらも専門家の指導のもとで筋力を減らさないような栄養指導が重要なのです。
注意したいのは、趣味のスポーツで、自分の判断で極度な減量をしたり体脂肪を落としたりすること。せっかく健康のために運動しているのに、かえって健康を害する結果となりかねません。趣味のスポーツでもパフォーマンス向上のために体作りをしたいなら、やはり専門家に相談することをおすすめします。人の体組成や体力は皆違いますので、ネット情報を鵜呑みにせず、その人に合った方法を行うことが重要なのです。
Q3:体の脂肪はサウナなどで体温を上げるほど燃焼しやすい。ウソ・ホント
ウソです。
サウナなどで体温が上がると汗をかいて、「体重が減った」とか、「痩せたように感じる」かもしれませんが、これは発汗作用によって、一時的に水分が抜けただけの状態です。体脂肪そのものが燃焼するには、筋肉を使ってエネルギーを消費する(=運動する)ことが鉄則です。
脂肪燃焼は、運動によって心拍数が上がり、酸素を使って脂肪がエネルギーに変えられる「有酸素運動」で主に起こります。サウナに入るだけでは筋肉を動かさないので、脂肪燃焼効果はほとんど期待できません。
ただし、サウナには次のような効果が期待できます。
・疲労回復(血行促進や老廃物の排出)
・ストレス解消、リラックス効果
・自律神経の調整
・美肌効果
・安眠効果
痩せるためにサウナに入るのではなく、心身と整える気持ちでサウナを利用するのは良いと思います。
Q4:色々な油が推奨されるが、どんな油もカロリー(1g9kcal)は一緒だから結局、は摂れば太る。ウソ・ホント
ウソです。
どんな種類の油でも1gあたりのエネルギーは9kcalで同じです。ですが、「だから油は太る」というの考えは正しくありません。
太るかどうかは“総摂取カロリー”で決まります。体重が増えるのは、「消費カロリーより摂取カロリーが多い」場合。油の種類にかかわらず、適量を守っていれば太るわけではありません。
しかしサラダ油や揚げ物、肉の脂、マーガリンなどに多く含まれる「飽和脂肪酸」や「トランス脂肪酸」は、過剰摂取で「動脈硬化」や生活習慣病のリスクを高めます。
動脈硬化とは、血管、特に動脈が硬くなり、弾力性を失う状態のこと。これは、血管の老化現象の一つで、血管壁にコレステロールなどが溜まり、血管が狭くなったり、詰まったりすることで、様々な病気を引き起こす可能性があります。
動脈硬化は若い時は症状に出る事はほとんどありませんが、老化とともに症状が現れやすくなります。これを防ぐためにも「飽和脂肪酸」や「トランス脂肪酸」は過剰に摂らないように、心がけた方が良いでしょう。
また質が良い油と言われるオリーブオイルやえごま油、魚の油(DHA/EPA)などの「不飽和脂肪酸」は、血流改善・炎症抑制・脳機能サポートなどの効果があり、リカバリーや集中力U Pをサポートする働きがあるのでアスリートはもちろん、皆さんに積極的に摂ってほしい脂質です。
Q5:脂質を摂ると体脂肪になるからできる限り脂質はカットしたほうが良い。ウソ・ホント
ウソです。
意外かもしれませんが、実際にラグビー部の栄養指導をしていると、「脂質を摂ると太る」と思い込み、ドレッシングを避けたり、牛乳を控えたりする選手がいます。
しかし、体脂肪が増えるのは、「消費カロリーより摂取カロリーが多い時」です。脂質を摂ったからといって、それが即、体脂肪になるわけではありません。摂った脂質もその分、カロリー消費すれば体脂肪に蓄積されることはありませんし、消費しなければ体脂肪になります。
また、脂質だけでなく、たんぱく質や炭水化物も、同じで、消費する以上に摂りすぎていれば体内で中性脂肪に変換されて、体脂肪として蓄積されるのです。
つまり、人の体は“エネルギー収支”によって体脂肪や筋肉量の変動が決まるのです。使わなければ貯まるお金と一緒ですね。貯金が増えるのはいいことが多いものですが、脂肪が増えるのは病気のリスクも増えるので、よくありません。
繰り返しますが、脂質もたんぱく質も糖質も、結局は「質」と「量」のバランスが重要なんです。ちなみに脂質は1日の総エネルギーの20〜30%を摂取するのが理想とされています(※日本人の食事摂取基準2025年版より)。
脂質が不足すると、栄養バランスが崩れるだけでなく、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、免疫力低下や骨の健康にも悪影響を及ぼします。
Q6.強度の低い運動の方が、強度の高い運動より脂質を利用効率が良い。ウソ・ホント
ホントです!
脂質を利用する効率という専門用語で「脂質利用効率」と言います。その言葉通りですが、運動中にエネルギー源として使うものに、糖質や脂質(脂肪酸)がありますが、脂質利用効率とは脂質を使う割合のことを言います。
エネルギー収支がマイナスであれば、体脂肪を燃焼しますから、痩せやすいということです。
問題文の強度の低い運動、つまり「低強度の運動」を具体的にいうと、運動しながら会話ができる程度で、例えば、ウォーキングやスロージョギングなどのこと。
次いで「中強度の運動」とは、運動している最中は息が上がるが会話は可能な程度で、ボクササイズやエアロビックダンスなど。
そして「高強度の運動」とは、運動中に息が上がり会話はほぼできないハードな運動で、試合形式のラグビーやサッカー、バスケットボールなどをイメージするとわかりやすいでしょう。
・「低強度の運動」は、15分で約100㎉を消費します。1時間実施した場合の総エネルギー消費量は約400㎉となり、そのうち80%の320㎉が脂質から供給されて、残りの20%の80㎉が糖質から供給されます。
・「中強度の運動(やや高強度の運動)」は15分で約150㎉/を消費します。1時間実施した場合の総エネルギー消費量は約600㎉となり、そのうち60%の360㎉が脂質から供給されて、残りの40%の240㎉が糖質から供給されます。
・高強度の運動は、15分で約200㎉を消費し、1時間実施した場合の総エネルギー量は約800㎉となり、そのうち約20〜40%の160~320㎉が脂質から供給されて、残りの約60〜80%の480~640㎉は糖質から共有されます。
このことからわかるように、低強度の運動が「脂質利用効率」が良いということになります。もちろん、燃焼する総消費カロリーは「高強度の運動」が最も高いのですが、脂質利用効率だけ注目すると「低強度の運動」を長時間行うこと、または「中強度の運動」が適しているということなのです。
参考:スポーツ栄養学ハンドブックP113、114
PROFILE
Tejin(テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。今はボクシングジムや大学ラグビー部で増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを行っている。また、競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・体づくりに関する実践的な支援を提供。執筆や講座出演も多数。