アナタの腰痛、ひょっとしたら腸内細菌の影響かも!? 「腸内細菌叢と痛み」 福島県立医科大学保健科学部教授 矢吹省司
腰が痛いと「歳のせいだ」とか姿勢の悪さ、運動不足、はたまた「運動のしすぎなどの理由を考えがちです。ですから「腸内細菌の乱れ」が関係していると思う人は少ないはず。しかし、実は、大いに関係あるというのです。腸内細菌と痛みに詳しい福島県立医科大学 保健科学部 矢吹省司(やぶきしょうじ)教授に教えてもらいました。
腸内細菌って何?
消化管(胃や腸)の中にいる細菌のことです。有名になったのは「ピロリ菌」の発見からだと思います。実は、我々の腸内には約1000種類、40〜100兆個の細菌が存在することがわかっていて、細菌叢(腸内フローラ)を形成しています。この数は、我々の体を構成している細胞の数より多いのです。腸内細菌叢の研究が盛んになったのは、2006年に発表されたマウスを使った研究論文からです。無菌のマウスに肥満マウスから取った腸内細菌を移植すると肥満になり、通常のマウスから取った腸内細菌の移植では肥満にならなかった、という結果から肥満には腸内細菌が関与しているという研究でした。その後、様々な疾患と腸内細菌叢との関係について研究が進められてきています。
病気(痛み)と関係しているの?
潰瘍性大腸炎などの腸の炎症性疾患と腸内細菌が関与していることはなんとなく理解できると思います。しかし、腸内細菌が脳に影響を及ぼしていると聞くと驚くと思います。脳神経の一つである迷走神経は、脳から胸部や腹部の各臓器に指令を送ったり、臓器で受けた情報を脳に伝えたりしています。脳と腸がお互いに影響を与え合うことを「脳腸相関」と言います(図1)。認知症やパーキンソン病、うつ病や自閉症などと腸内細菌のバランスが関連しているという研究結果があります。その他にも、抗がん剤の効きやすさにも腸内細菌が関与しているという報告もあります。
「脳腸相関」:腸の変化が脳に影響を与え、脳も腸に影響を与えています。
痛みに関しては、広範囲の痛みを持っている人たちでは、腸内細菌叢の乱れが生じている可能性が報告されています。まだ特定の菌が同定されているわけではありません。我々が行った地域在住の高齢者を対象とした研究では、腰痛がある人たちは、腰痛以外の痛みがある人たちや痛みがない人たちと比べて、腸内細菌叢の多様性が低下しているという結果でした。痛みの部位によっても腸内細菌叢の関与が変わっているかもしれません。
「腸内細菌叢に良いと言われていること」:バランスのとれた食事と運動は、腸内細菌叢のバランスを良くするためには有効と言われています。
良い菌を増やすにはどうすれば良いの?
「悪玉菌」、「善玉菌」とよく言われますが、腸内細菌叢で大事なのは色々な菌がバランスよく存在する「多様性」と言われています。多様性を高めるためには、食物繊維を多く含む食材や発酵食品の摂取(バランスのとれた食事)、そして運動が良いことがわかっています(図2)。普段の生活の中で意識してもらえると、腸から健康になれるのではないかと思います。
文献
内藤裕二:腸内細菌叢の科学. 日経BP, 東京, 2024