骨を強くして、骨折を防ぎ、健康寿命を延ばしましょう! 愛知医科大学 メディカルセンター 准教授 井上真輔
高齢者になると、大きな衝撃があったわけでもないのに骨折していることがあります。これは骨がもろくなった骨粗鬆症による骨折です。これを「脆弱(ぜいじゃく)性骨折」といいます。脆弱性骨折は、実は癌より寿命が縮む可能性があると言われています。そこで、まずは骨粗鬆症の検査を受け、骨粗鬆症と診断された場合、薬物治療と適切な運動療法を継続することが大事です。ここでは、脆弱性骨折予防に詳しい愛知医科大学メディカルセンター准教授の井上真輔先生に解説してもらいます。
じつはとっても怖い骨粗鬆症!
骨粗鬆症と聞くと、多くの人は骨がもろくなる病気を思い浮かべるでしょう。
とはいえ、「骨が脆くなっても転ばなければ大丈夫」とか「転んで骨折しても治療すれば問題ない」と考えて、骨粗鬆症の検査や治療を軽視してしまう人も少なくありません。
しかし、骨粗鬆症で骨折すると、癌になるよりも寿命が縮むという報告があります。骨粗鬆症による大腿骨骨折を受傷すると、5年後に生存している確率(5年生存率)は約50%となり、全がんの5年生存率の66%より低くなるそうです。
骨折によって活動が制限されることで、全身の状態が悪化することがあり、その結果、健康な時間が大きく減少するのです。このように、骨折が高齢者の生命予後に与える影響は非常に深刻です。骨折を防ぐために骨粗鬆症の検査と必要な治療を受けて、骨を丈夫に保ち、万が一、転んでしまっても骨折しにくい身体を作ることが大事なのです。
骨粗鬆症の検査
骨粗鬆症は「静かな病気(サイレント・ディジーズ)」と呼ばれています。その理由は、初期段階では痛みや自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに骨密度が低下し、骨が脆くなってしまうからです。特に女性は、閉経後にホルモンバランスが変化し、骨密度が急激に低下するため注意が必要です。健康に過ごしていると思っていても、骨粗鬆症が静かに進行している可能性があります。
骨粗鬆症かどうかは、「骨密度※1」を測定することでわかります。年齢が70歳の元気な方でも、骨粗鬆症の検査を受けてみると、実は骨密度は95歳!ということがわかってとても驚かれることもあります。骨粗鬆症が気になったら、まず骨密度を測定してみることをお勧めします。
また、同じ骨密度であっても、骨が折れやすい人と折れにくい人がいることが知られています。その差は「骨質※2」の状態によることがわかっています。近年では、「骨密度」に加えて、「骨質(骨微細構造)」を評価するTBSという検査を取り入れる施設が増えてきました。骨折を避けるために、より詳しく骨の健康状態を知ることができる「骨密度」+「骨質」の検査をお勧めします。
※1 骨密度:骨に含まれるカルシウムなど、単位面積当たりの骨の量を指す。
※2骨質:骨の微細構造、骨の代謝、微小骨折の有無、石灰化の状態などの総称。
骨粗鬆症の薬物治療を受けましょう
骨粗鬆症と診断された方には、骨を強くして骨折を防ぐための薬物治療を受けることをお勧めします。
この10年間で、骨粗鬆症の治療は大きく進歩しました。「テリパラチド」(副甲状腺ホルモン)や「デノスマブ」(抗ランクル抗体)、「ロモソズマブ」(抗スクレロスチンモノクローナル抗体)などの新しいお薬が、日本でも使えるようになりました。これらの注射薬は、強力な骨折予防効果があり、骨折のリスクが高い方に適応されています。
このように医師は、患者さんの年齢や骨折リスクに応じて、さまざまなお薬や注射が選べるようになりました。自分に合った治療法を見つけるために、ぜひ主治医の先生と相談してみてください。