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Interview

職人のカラダ 「鍋を振り続ける中華料理人」 –老舗中国料理店『ふんよう亭』主人に訊く–

唯一無二の「ふんよう亭」の味はどうやって完成したのか?

『ふんよう亭』名物の「いかのから揚げ(一杯)」1320円

 

――それにしても、10代はレースに夢中だったとおっしゃいましたが、20歳で初めて厨房に立ってみて、ご苦労はありませんでしたか?

「そもそも、母は生粋の料理人ではありません。満州で覚えてきた中国の家庭料理を、日本人の口に合うようにアレンジして出していました。それを引き継ぐとなると、これが難しいんですね。味つけは母の感性によるところが大きく、常連客の要望を聞いてどんどん変えていたから、漠然としすぎていて。当時の私には“正しい中国料理”がまったくイメージできなかったんです」

 

――急に中国料理を作るとなると、何かしら自分の中に物差しが必要になってきそうですよね。

「そうなんです。そこで、80年代に何回かに分けて、北京やその周辺を旅しました。店の常連さんで、ご主人が中国文学の研究者、奥様が中国語の教師をされているご夫婦がいらして。当時、奥さんが日本語講師として北京大学に行くから、連れて行ってあげるよ、とおっしゃってくれて、案内してくれたんです」

――それは面白そうですね。

「ええ。普通の観光では行けないような、庶民的な食堂から高級レストラン、さらに一般家庭にもお邪魔して、いろんな料理を食べ歩くことができました。これを経て、ようやくある程度、母が言う中国の家庭料理がカタチとして理解できました」

――その旅で、いちばん印象深かったものは何ですか?

「香辛料の種類や使い方、そして素材の活かし方ですかね。そのまま真似すると、日本人は苦手だろうな、とか想像しながら味わってました。あとはサービスのひどさ(笑)。高級レストランにも行ったんですが、当時の中国はみんな国家公務員だから、サービスという概念がないんですね。まだ食べている料理を、新しく運ばれてきた別の料理の皿にザーッと流し入れて、空いた皿を持って行っちゃったりね(笑)」

こちらも名物の「豚足の味付煮」770円

 

――ということは、「ふんよう亭」には、元々のお母様の料理と、ご主人が北京で学んできた料理の2つの系統があるんですか?

「そうですね。実はメニューに載せているものはごく一部でね。母の料理でいうと、例えば『餃子』や、『豚胃袋の五香煮』、『羊の焼き肉』なんかがそうですね。これらは昔から変わらない味。逆に、オイスターソースを使った料理などは、私が後で加えたものですね」

――料理をいただくたびに、スープからポン酢まで、すごく滋味深くて美味しく感じるんですが、何かこだわっている理想の味はありますか?

「うーん、何だろう。あえて言うなら、“個性を出さないこと”でしょうか。料理のベースとなるオリジナルの白湯スープも、焼き物や揚げ物にかけるポン酢も、あらゆる料理に寄り添えるような味になるように気を配っています」

――中国と日本の味の、一番良いところをきちんと引き出されている印象で、いつ食べても安心できる料理ばかりですね。

「ありがとうございます。おっしゃるような、ちょうどいい味のバランスこそが『ふんよう亭』の出発点。料理が云々というより、そこを一番大事にしてるんです」

やわらかく旨味たっぷりの「鳥の白蒸し」990円

 

――ちなみに、20歳でお店に入ってからは、クルマは卒業ですか?

「いえ(笑)。レースは止めましたが、クルマはずっと好きで、旧車を中心に、色々と乗り継いできました。当時はバブルで景気も良かったですからね」

――おお、例えばどんなクルマですか?

「MGにトライアンフ、ロータス・エランとか、最初は英国の旧車にハマり、浮気してフェラーリ328やメルセデスのGクラスにも乗りました。特にエランみたいな、走る・曲がる・止まるが全部自分で自由にコントロールできる英国製の旧車は、いつまで経っても楽しいですね。今はホンダN360とスズキのジムニーを所有しています」

――名車ばかりで羨ましい限りです。でも、脳梗塞の影響で右半身が不自由な状態だと、細かいアクセルワークなどは難しくなったんじゃないですか?

「いや、それができるんです(笑)。そこだけは無理矢理、何がなんでもできるようにしてる、というか」

――さすが、根っからのクルマ好きの執念を感じます(笑)

「ええ、そこだけはね(笑)。やる気さえあれば、動くようになるもんです。ソロキャンプも趣味なので、この右半身が思うように動かない状態を改善して、色んな場所に行きたいですね」

(撮影・文/田代智久)

取材協力

ふんよう亭

東京都杉並区荻窪5-29-11 プラザいなば1F

☎03-3398-4651

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