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元バレリーナ・吉田都さんに聞く「バレエと運動器の関係性」

今回のゲストは、バレエの最高位・プリンシパルとして22年にわたり英国で活躍し、現在、新国立劇場の舞踊部門芸術監督を務める吉田都さん。当協会理事で整形外科医の竹下克志が、「運動器の健康」をテーマに、吉田さんにバレエの魅力や体の動かし方、バレエの今後などについて伺いました。

竹下広報担当理事のインタビューに答える吉田さん

 

吉田都/元バレリーナ・舞踊舞台監督

PROFILE・よしだ・みやこ 9歳でバレエを始める。83年に英国ロイヤル・バレエ学校に入学。84年、サドラーズウェルズ・ロイヤル・バレエ団(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)に入団。88年に最高位プリンシパルに昇格。95年に英国ロイヤル・バレエ団に移籍。以来、22年間に渡りプリンシパルとして活躍。2017年、文化功労者。2019年、現役引退を発表。現在、新国立劇場・舞踊部門芸術監督を務める

新国立劇場バレエ団『ライモンダ』2004年講演より。 撮影:瀬戸秀美 / 提供・新国立劇場

 

この5月にオンラインで無料ライブ配信された「コッペリア」の同時視聴者数が、16万7千人に上ったそうですね。

吉田 そうなんです。元々は新国立劇場オペラパレスで上演予定だったんですが、緊急事態宣言で公演中止になったことを受けての苦渋の決断でした。でも結果的には普段バレエをまったくご覧になっていない方もたくさん観てくださって。今後につながる配信だったと思っています。

素晴らしい舞台で、モニタの前で感動しました。

吉田 ありがとうございます。

バレエで重要な体の動きは?

バレエを始めたのが9歳と伺っています。どんな子ども時代だったんでしょうか?

吉田 じっとしていられなくて、常に体を動かすのが好きでしたね。バレエと出合ったのは4歳の時ですね。本格的にクラシック・バレエを始めたのが9歳になります。

幼少期も含め、これまで観たバレエの舞台で、最も感動したものは何でしょうか?

吉田 小学生の頃に観たジョルジュ・ドンの「ボレロ」。あとはロンドンに渡ったばかりの時に観たゲルシー・カークランドの「ロミオとジュリエット」。この2つは強烈に覚えています。

どちらも名バレエダンサーですね。名舞台に限らず、バレエを演じるうえで、欠かせない体の動きというのはどういうものなんでしょうか?

吉田 色々ありますが、一つ挙げるとするなら、やはり「ターンアウト」(脚の付け根から両足を外側に開くこと)でしょうか。股関節からの外旋。これがきちんとできるかどうかが、バレエではとても重要になってきます。意外とできない人が多いんですよ。

そうなんですね。整形外科の世界でも、股関節の可動域は一人ひとりの骨や軟骨の状態、靭帯や筋などの柔らかさによって、かなり個人差があることがわかっています。

吉田 また、筋肉が柔らかいほうが、ケガをしにくいですね。私はアスリート的なムキッとした筋肉に憧れてたんですが、残念ながら筋肉がつきにくくて柔らかいタイプ。ただ、こういう筋肉の質だったからこそ、大きな故障なくここまで踊ってこれたんだろうな、と思っています。

いま、スポーツの世界では女性の過度な運動や食事管理による骨粗鬆症や疲労骨折、月経障害などが問題になっていますが、バレエの世界ではいかがですか?

吉田 バレエダンサーは踊りにキレが必要な一方で、リフトされる(男性のダンサーに体を持ち上げられる)場面も多々あります。体重が重くなりすぎず、強い体を作る必要があるので、このバランス調整は難しいところです。

強くて軽い体ですか。食事管理が大変そうですね。

吉田 ええ。なかには拒食症になる若い子もいますね。ただ、最終的にバレエ団に入って、この世界に残るっているのは、やはり“食べても太らない”タイプなんです。食べずに踊るとケガをしやすいうえに、すぐバテます。しっかり栄養を取り、それでいてちょうどいい体を維持できる人が残っていますね。

引退後も稽古を続ける理由

吉田さんの場合、現役を退いてからも、トレーニングは継続されているんでしょうか?

吉田 引退後、新国立劇場の舞踊部門芸術監督に就任したての頃は何かと忙しくて、お稽古やトレーニングをやめていたんです。そしたら、驚くほど体に痛みが出てしまって……。

おそらく、関節などを支えていた筋力が一気に落ちたことで、体のあちこちに不都合が現れたんでしょうね。

吉田 そうですね。これは良くないと思って、去年(2020年)の3〜4月の自粛期間中に、家にいて時間が取れたこともあり、自分で筋トレを始めました。そこから、バレエのお稽古ができるくらいの体に戻せた、という感じです。今も仕事の前にお稽古は続けています。

体調も良くなりましたか?

吉田 運動してない時に比べると、全然違いますね。自分でもびっくりしました。動かないほうが体はラクだと思っていたんですが……。

逆なんですよね。

吉田 ええ。特に引退公演までのお稽古は特にハードで、毎朝、全身打撲のような痛みと共に目が覚めて、そのまま生活しているような状態だったので、その反動もあったのかもしれません。

それは壮絶ですね。

吉田 運動のやり過ぎも良くないんでしょうけど、一切やらなくなったらなったで、これだけ体に支障が出るんだということを身を持って実感しました。

コロナ禍の影響で、自宅で過ごす時間が増えた今、実は運動不足が続いて体調を崩す人がかなり増えています。やり過ぎは禁物ですが、適度に体は動かしておいたほうがいいですね。

吉田 家でできる運動もたくさんありますからね。ただ、私の場合、バレエとなると、どうしてもやり過ぎてしまうところがあります(笑)。しっかりトレーニングして体を変えていかないとバレエは踊れない。子供の頃から身に染みている感覚と言いますか。適当なのところで抑えることができないんです(笑)

バレエの最高位ともなると、想像もつかないほどのクオリティを要求されるでしょうし、ものすごくハードな訓練が必要なのもわかります。

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