コラム 2022.06.15

コロナ後遺症と身体や心への影響とその対応 牛田亨宏(愛知医科大学学際的痛みセンター部長)

2019年12月に中国武漢で新型コロナウイルス感染症が報告されてから、わずか数カ月後にはパンデミックとなり、我が国も2022年5月までに約797万人が感染したと報告されています。現在、ワクチン接種が進み、感染者が減少する一方、すでに感染した人における後遺症についての問題が顕著になっています。今回は、そのコロナ後遺症について、厚生労働省『新型コロナウイルス感染症診療の手引き・罹患後症状のマネジメント』編集委員会の牛田享宏氏に詳しく教えていただきました。

COVID-19罹患後に遷延する症状の現状 (*一般的に「コロナ後遺症」と呼称される症状)

「コロナ後遺症」については昨年から特に多岐にわたる症状が存在することから注目され、これらの症状に苦しんでいる患者さんのケースがマスコミでもしばしば取り上げられています。  

 厚生労働研究班によるわが国の報告としてはCOVID-19と診断され入院歴のある患者525例の追跡調査があり、疲労感・倦怠感、息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力低下は、診断6カ月後に罹患者全体の10%以上に罹患後症状として認めましたが、一方で多くの罹患者は症状が改善していました。また罹患後症状が1つでも存在すると健康に関連した生活の質が低下し、不安や抑うつ、 COVID-19に対する恐怖は増強し、睡眠障害も増悪することがわかっています。

 さらに各世代に分けてみると、筋力低下や息苦しさは、肺炎を合併したより重症の罹患者で認める傾向のため、重症患者の割合が高い41~64歳、および65歳以上で多く認めていました。

身体の痛みについて

 

 身体の不調は痛みとして現れるケースも多く、海外の報告では頭痛(1.7~33.9%)、喉の痛み(0.7~47.1%)、胸部痛(1.6~17.7%)、腹部痛(1.9~14.5%)に加えて運動器の痛みである筋肉痛・関節痛(1.5~61%)とされており、これらには頚部痛、背部痛、腰痛なども含まれており、これらは時間の経過とともに減少する傾向がみられています。  

 一方でコロナ後遺症における痛みについて取り組んでいる愛知医科大学附属施設のコロナ後遺症外来の472名をまとめると、頭痛、胸痛、その他体部痛を訴える患者の割合は海外の報告と矛盾しないデータでした(図1)。多くの場合、痛みは急性期から存在していましたが、中には罹患後1カ月から3カ月の間に新たに発症した場合がありました。  

 また、これらのいわゆる晩発性の発症の中には、急性期の症状がいったん軽快したにもかかわらず、職場復帰やワクチン接種などによって再燃する場合もみられています。更に6カ月以上経過した段階で痛みの症状を訴える患者の割合(図2)は、それ以外の症状と比べ、相対的に増えていて,痛み症状が他の症状と比べて遷延することが多いことが考えらます。  

 これまでの研究で頭痛・筋肉痛・関節痛などの病状がどのようにして出てくるかについては、少しずつ解明が進んでいます。コロナウイルスによる神経・筋組織への直接・間接的障害、心臓や肺への影響によるもの、感染によっての運動器を含めた機能低下や働けない状況などが出たことによる心身的な影響などが存在するとされています。  

 病態は多彩であり、現在までの時点で絶対的な治療法は確立されていません。デルタ株以前のデータをもとに厚生労働省では「罹患後症状のマネジメントの手引き」を発出していますが、まずは信頼できる医師に相談して必要に応じた治療(薬物療法や運動療法)を行いつつ生活に戻ることを目指していただければと考えています。

コロナ後遺症とワクチン接種

 コロナ後遺症がある患者さんからの質問で、ワクチン接種の可否についての質問をよく受けます。コロナ感染経験のない患者さんに対するワクチン接種については罹患後症状である痛みの発現頻度や程度を軽減するといった報告が複数あります。しかし、コロナ罹患後の方へのワクチン接種が痛み症状に及ぼす効果については改善や悪化など、結果は一定していません。実際、診療の現場でワクチン接種をきっかけに痛み症状が悪化して遷延するといったことをしばしば経験しています。これはコロナ感染における複雑な痛みの機序に加え、ワクチン接種後による免疫系の活性化などが関わることが考えられることから依然解明すべき点が少なくないと思われます。

 コロナウイルスのタイプも次々と変わってきており、コロナの後遺症の病状も変わってくることが考えられます。当面は、感染しない行動を常に頭の片隅においておくことが肝要かと考えられます。

文・牛田亨宏

うしだ・たかひろ/慢性の痛みに対して集学的な治療・研究を行う日本初の施設「愛知医科大学学際的痛みセンター」の部長および学際的痛みセンター教授。運動器に対する理学療法、各種薬物療法(漢方を含む)、麻酔医とともに行う神経根ブロック療法、高周波パルス療法などを組み合わせるほか、精神科専門医、臨床心理士による精神・心理学的方法も含めた診療を行う。

この記事をSHAREする

RELATED ARTICLE