疾患ナビ 2019.02.07

30代・40代の約7割が腰痛!「痛い、重い、だるい、動けない!」の原因は?

30代・40代の約7割が腰痛!「痛い、重い、だるい、動けない!」の原因は?

腰痛の原因となる病気とは?

・「長時間、座って仕事をしているせいか、夕方になると腰がウズウズと痛みます」(30代・事務職・女性)

・「立ち仕事のせいか、万年腰痛です。最近ではときどき足にしびれが出てきました」(40代・飲食店勤務・男性)

・「移動の多い仕事です。昨年、出張中に、カバンを持とうとした途端、急に激しい痛みがきて、動けなくなりました。以来、慢性腰痛にも悩まされています」(30代・会社員・男性)

・「運動不足の上、冷え性のせいで冬になるととくに腰が重くて」(50代・主婦)

・「高校に入ってからサッカーの練習量が増え、慢性的に腰が痛みます」(10代・高校生・男性)

 このように「腰痛」と一言に行っても、いろいろなタイプがいて、考えられる原因も、立ちっぱなしや座りっぱなし、反対に移動が多かったり、冷え性や運動のしすぎなどさまざまな。また、年齢、性別も異なります。ただし共通しているのは、生活や仕事、さらに運動などに支障をきたす点。いったい腰痛の原因は何なのでしょうか?

 そこで、日本医科大学整形外科の宮本雅史(みやもと・まさぶみ)先生にお話しを伺いました。

腰痛は病名ではない

 「最初に、皆さん、腰痛でよく勘違いされていることがあるのでお話ししておくと、腰痛は病名ではなく症状だということです。何らかの疾患や心身の状態の不安定があり、その症状として出てくるのが腰痛なんです」(宮本先生、以下同)。

 つまり、腰痛がある人は、心身になんらかのトラブルが起きている可能性があるということです。

 「腰痛が起こる病気は大きく分けて、①背骨 ②神経 ③内臓 ④血管 ⑤精神的に分けられます。このなかでも、腫瘍、感染症や神経障害を持つ病気は非常に重篤であるケースがあり、内臓疾患では命に関わることもあります。我々医師は、腰痛の診療ガイドラインの初期評価として〝レッドフラッグ❖1〟を用いて診察をします。これにあてはまれば、精密な検査をして、腰痛を引き起こす疾患を特定します。腰痛でも初期の診察は非常に重要なのです」

腰痛のレッドフラッグ ❖1
以下の項目にあてはまれば、重篤な疾患が隠れている可能性があるので、整形外科で検査を受けましょう。

❶  発症の年齢が20歳未満か56歳以上
❷  時間や活動、動作に関係ない腰痛
❸  胸部痛
❹  悪性腫瘍の病歴
❺  長期間にわたる副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)の使用歴
❻  HIVの既往
❼  栄養不良
❽  体重減少
❾  広範囲に及ぶ神経症状
❿  構築性脊柱側弯症
⓫  発熱

 「またこのような重篤な病気が隠れていなくても、治療を必要とする疾患の可能性もあるそうです。腰痛を起こす代表的な病気は、文末の❖2を参考にしておくとよいでしょう」

原因が特定できない『腰痛症』対策

 しかし、腰痛を訴えても、必ずしもなんらかの病気を宣告されるわけではありません。実際、「腰が痛いんです」と病院に行っても、病名を特定されなかったという人も多いのではないでしょうか。

 「レントゲンやMRIなどの画像診断や血液検査などをしても、加齢による退行性変化以外の明らかな異常が見られず、原因が特定できない腰痛があります。これを専門用語で『非特異的腰痛』、一般的には『腰痛症』といいます。じつは、腰痛を訴える人の多くがこの『腰痛症』だと言われているんです」

 たとえば冒頭の事務職の女性のような、座りっぱなしや立ちっぱなしといった同一姿勢をし続ける仕事の人の腰痛は、画像診断してもほとんど異常は見られないケースが多いそうです。

 「こういう方は、長時間にわたり同じ姿勢をとり続けた結果、腰部に筋肉疲労を起こしていると考えられ、画像診断では異常が認められないのです」

 ここですこし、腰痛のメカニズムを理解しておきましょう。

 背骨には脳から続く「中枢神経(脊髄)」が通っており、「椎間孔」という骨の窓から「末梢神経(運動神経や知覚神経)」として出ています。筋肉や骨・血行などになんらかの変化があって、それが刺激となり、末梢神経を上行して脊髄に入り、脳へと伝わると痛みなどの感覚になります。これが腰痛として表れる場合があるのです。

 「腰痛症は仕事の内容に関連することが多くあり、同一姿勢を続ける作業、重量物を扱う作業の人に多いほか、仕事上の不満や、ストレスなど、心理・社会的な因子が関係することもあります。また、生活習慣においては運動不足と喫煙は深く関連するといわれています」

 つまり、「腰痛症」は、肉体的原因や精神的原因など、非常に敏感に反応して表れてくるのです。これが何よりやっかいな点ですね。それだけに対策や予防も大変になり、日々、地道に、姿勢や仕事や家事などの作業方法の見直し、精神面においてのストレスケアなどが必要になるということです。

 「1番のオススメの方法としては、ストレッチや体操などをゆっくり行い体全体の柔軟性を高めることです。こうした時間を設けることは心のケアにもなり一石二鳥。ただ、こうしたケアでもよくならない場合は、やはり、何らかの病気が隠れている可能性もありますので、病院で診てもらうことをおすすめします」

30代・40代の約7割が腰痛!「痛い、重い、だるい、動けない!」の原因は?

「腰痛を起こす代表的な病気」❖2

腰椎椎間板ヘルニア
 椎間板は、背骨を構成しているもののひとつで、衝撃を吸収するクッション材の役割をしている。椎間板の中央にはゼリー状の髄核があり、その部分が外に飛び出して神経を圧迫することにより椎間板ヘルニアの症状が起こる。腰痛の他に、お尻や太もも、足の痛み、しびれを感じて歩行が難しくなる場合もある。

腰部脊柱管狭窄症
 背骨の脊髄神経が通る脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されることで、歩行時に足が痛みやしびれなどの症状が起こる。少し休むと楽になるが、また同じ症状が起こり、休んだり歩いたりを繰り返すようになる。重症になると排尿障害が起こることもある。加齢に伴う背骨の変形や椎間板の膨隆が原因であることも多い。

脊椎分離症・すべり症
 腰椎を構成している椎弓の一部が切れて分離した状態が分離症。特に4番目、5番目の腰椎にみられやすく、構造的に不安定になると分離した部分より前にある椎骨が前に滑ることがあり、これをすべり症という。すべり症により神経が刺激されると、下肢にしびれや痛みなどの症状もみられることがある。分離症はスポーツをしている子供にみられることも多い。

変形性脊椎症
 背骨は椎骨と呼ばれる骨が、24個積み重なっており、そのうちの下から5個までが腰椎。その間にはクッション材の役割のある椎間板がある。変形性脊椎症では、主に加齢に伴って、背骨の関節や椎骨に骨棘というトゲのような骨が増殖し、進行すると神経を刺激することもあり、下肢のしびれや痛みを起こすことがある。

腰椎椎間関節症
 椎間関節に痛みが起こる病気。原因は腰椎を過剰に曲げたり反ったりすることで椎間関節を痛めた場合と、日常生活での悪い姿勢により椎間関節に負担がかかるために痛めてしまう場合がある。特に体重増加で腰椎が後ろに反っている人や普段の姿勢で腰が反っている人は椎間関節に負担がかかりやすく、腰痛の原因となりやすい。急性に椎間関節を捻って炎症を起こせば「ぎっくり腰」となる。

腰痛常識のウソ、ホント

1 腰痛は、肥満や遺伝と関係アリ?
肥満であると腰痛になりやすいとよくいわれていますが、じつは、肥満と腰痛に関係があるという明確な報告はありません。また、祖母や母親が腰痛だから、自分も年老いたら腰痛になるだろう、という腰痛の遺伝的な関連性も、じつは明確な結論がありません。

2 ぎっくり腰のとき、安静にしていた方がいい?
今までは急性腰痛に対して、安静にしていることが治療では重要とされていましたが、近年では本人ができる範囲内の日常生活活動を続ける方が、治療成績がよいという報告がされています。
3 コルセットは腰痛に有効?
コルセットが腰痛に対する予防や治療に有効であるという結論はまだありません。しかし装着によって機能改善の効果がある、動作がスムーズになるという報告があります。腰痛時にはコルセットを装着して日常生活活動をできるだけ続ける方が治療成績をあげる点からいえば、コルセットは有用な道具といえるでしょう。

4 腰痛予防には、強い筋トレが効果的?
たしかに腰痛予防には運動は有効です。エアロビック、ウォーキング、ストレッチ、もちろん筋力増強運動も含まれます。ただ、強い負荷をかけて筋トレを行うことと、適度に週2~3回エアロバイクやウォーキングなどの有酸素運動を行うこととを比較しても臨床的に差がないとの報告もあります。適度な負荷をかけた運動を習慣として継続することが大事です。

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