コラム 2026.05.25

【書評】歩いて出会う、もう一つの東京。名もなき名店を巡る『寄せ場のグルメ』

 スポーツや芸術鑑賞、料理にキャンプなど、世の中には多くの趣味が溢れていますが、散歩やそのついでの“食べ歩き”を趣味にしている人も多いのでは?

 特に東京には星の数ほどレストランがあり、ミシュランの星付きレストランの数は18年連続で世界一。そんな美食都市・東京の有名店を食べ歩くのは、非常に楽しい趣味の一つと言えます。

 しかしその一方で、東京にはメディアにほとんど登場しない名店が存在します。単に「美味しい」「映える」というだけでは片付けられない、東京各地で脈々と愛され続ける、労働者たちのための店と料理。そんな、ある意味で東京の“すっぴん”とも言えるフードカルチャーにフォーカスしたのが、今回ご紹介する『寄せ場のグルメ』(潮出版社)。

 本書に登場するのは、著者であるノンフィクションライター・中原一歩氏が「寄せ場」と呼ぶ、労働者の吹き溜まりのような場所で営業する店ばかり。

 例えば、関東最大のドヤ街として有名な山谷の“めし屋”、若い中国人たちが日本で働く同胞のために開く高田馬場の“ガチ中華”。はたまた食肉市場がある品川駅・港南口の路地裏にある、新鮮この上ないホルモン焼きの店、そして韓国から来た労働者たちをルーツに持つ、地元密着型の焼肉店などなど。

 著者は、本書の中で「食べるという行為は、食べる喜びと、食べなくては生きていけない辛さを内包している」と記しています。駅前のテナントビルなどに入居するきらびやかなレストランとは大きく趣を異にする、土地ごとの歴史や文化的背景を色濃く感じさせる、土着スタイルの飲み屋や食堂。そこには、飲食にまつわる、いくばくかの哀愁が感じられます。

 東京各地の寄せ場にまつわる文化的バックボーンを丁寧に取材し、その地に伝わる“寄せ場のグルメ”の魅力と個性を活写した本書は、労働者たちが形作った東京という都市の、別の側面を伝える案内書でもあります。

 ぜひ本書を片手に、表舞台にはほとんど登場しない東京の寄せ場の味に出合いに、散歩に出かけてみては?

文・Tomohisa Tashiro

この記事をSHAREする

RELATED ARTICLE