コラム 2020.12.04

地方都市型前十字靭帯再建術リハビリネットワークグループ「膝小僧」の取り組みとは?

毎年、日本全国各地で行われている各団体・機関および個人の運動器の健康増進活動の最も独創的かつ優れた活動を顕彰している「運動器の健康・日本賞」。2020年度「奨励賞」を受賞した「岐阜大学医学部整形外科」の事業内容である「地方都市型前十字靭帯再建術リハビリネットワークグループ『膝小僧』の取り組み」についてご紹介します。

主な活動内容と実績

 岐阜大学医学部整形学科は、岐阜県岐阜市・大垣市・各務原市で活動する団体です。2018年以降、岐阜市(人口約41万人)、大垣市(人口約16万人)、各務原市(人口約15万人)のエリアにまたがる、地方都市型前十字靭帯再建術リハビリネットワークグループ「膝小僧」を発足。

 これには前十字靭帯(ACL)再建術執刀医と、理学療法士が属する関連施設が参画しており、患者ごとのリハビリ内容やスポーツ復帰基準などを標準化し、前十字靭帯(ACL)損傷治療の地域格差を解消する活動を行っています。

 前十字靭帯とは、膝関節の中で、大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯。スポーツ外傷での損傷が多く、ジャンプ後の着地、急激な方向転換、衝突などによって損傷が引き起こされます。

 そもそも前十字靭帯(ACL)損傷の治療は、手術と周術期リハビリの専門性が高いうえ、互いの連携が不可欠です。しかし、日本の地方都市では、短期間の入院で済む手術は遠方施設で専門医の手術を受けることができても、1年以上を要するリハビリに関しては、ACL損傷に精通していない近所のリハビリ施設にかかることが少なくありません。当然、施設ごとにリハビリプログラムが異なるため、膝機能の回復やスポーツ復帰が安定せず、さらには膝二次損傷などが引き起こされることすらあるのです。

 こうした問題を解消すべく、「膝小僧」では、ACL専門リハビリ施設のない地方都市に最適な標準リハビリプログラムの開発を行うとともに、ACL治療体制の整備に取り組んでいます。例えば各患者が最寄りのグループ関連施設で統一化リハビリプログラムと評価を受けられるシステムを構築。同時に、そこから得られた評価データを利用して、性別・年齢・活動レベルに応じたリハビリプログラムを作成することで、二次損傷危険因子やその回避法を導き出しています。

 具体的な活動内容は以下のとおり。

(1) 年3回の「膝小僧」グループミーティングと、毎年の研究会での成果報告

(2)統一リハビリプログラム冊子の作成

(3)一般的な整形外科病院・医院で施行可能な、術前・術後半年・1年評価項目の決定

(4)岐阜市、大垣市、各務原市の7つの整形外科病院・医院での統一リハビリプログラムおよび評価の実行とデータ分析。また、スポーツ復帰基準を含めたACLリハビリプログラムの標準化と、二次損傷予防プログラムの開発

 このネットワークリハビリプログラムには、これまでに患者126名が参加。活動開始前と比較して、膝関節可動域や筋力の回復が早まり臨床成績が改善しています。同時に患者のスポーツ復帰のための課題認識が向上したことも成果の一つです。現在、蓄積されたリハビリデータを解析し、年齢・性別・活動レベルに応じたリハビリプログラムを作成することで、地方都市でも最適なACL損傷治療が受けられる医療体制を整備中です。

岐阜大学医学部整形外科

 

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