コラム 2023.09.01

鍛えていても腰が痛い?! スポーツマンに「腰痛」の人が多い理由とは?

普段からケガや病気の予防に細心の注意を払っているトップアスリートにも起きる体のトラブル。特にスポーツ選手に多いのが腰痛です。

そこで今回は、アスリートの腰痛のメカニズムに詳しい徳島大学・西良浩一教授に、スポーツ選手がかかりやすい腰痛のパターンと、その特徴について伺いました。

スポーツ選手に腰痛が多い理由とは?

日本国民の80%が一度は経験するといわれる腰痛。不摂生や運動不足が原因で起こる腰痛もありますが、実は運動のしすぎでも腰痛は起こります。

西良先生によれば、スポーツ選手は全体の約3割以上の人が繰り返し腰痛に悩まされているという報告もあるそうで、スポーツを休まざるを得ない最も大きな原因の一つとも言われているとのこと。

「普通の人の腰痛の原因とは異なり、アスリートの場合は使いすぎで起こります。腰の回転や反り、ひねりなどを何度も繰り返すため、炎症が起きたり、腰部の骨や軟骨がすり減って変形したりしてしまう。これが多くのスポーツ選手の腰痛の原因です」

 野球、ゴルフ、バレーボール、バスケットボール、ハンマー投げ、格闘技などなど、あらゆる競技に腰痛が起きる可能性があると西良先生は言います。

スポーツ選手の腰痛のパターンは?

スポーツ選手のほとんどの腰痛は、体の酷使によるものですが、痛めている腰部の箇所は人によって異なると西良先生。

「腰痛の原因となっている位置は、実は前と後ろに分かれています。イラストを見るとわかりやすいと思いますが、前側は椎間板、後ろ側は椎間関節にトラブルが生じます。ざっくり言うと、子ども(発育期)は後ろ側の椎間関節に、成人以降は前側の椎間板にトラブルを起こしやすいんです」

症状の名称で言えば、発育期の腰痛は椎間関節に生じる疲労骨折である「腰椎分離症」や「椎間関節症」が多く、成人以降は、「腰椎椎間板ヘルニア」「椎間板症」が多くなります。もちろん、これらの疾患はどの世代にも起きる可能性があります。

また、「競技でいうと、腰をひねる頻度が高い野球や体操、フィギュアスケートなどは椎間関節にトラブルが出やすく、重量挙げなどの重いものを持ち上げる競技は、ヘルニアになりやすいなどの特徴があります」

腰が痛くなったら放置は危険!

スポーツ選手の腰痛は何度も同じ動作を繰り返すことで炎症が起きます。しかし、日常生活では痛みが出ない場合も多いため、競技を続けてしまう選手も多いようです。

「アスリートは何らかの目標を持って練習しているので、ほとんどの人が休みたがらない。加えて“腰痛くらいで休むなんて”と軽視している人も多いようです」

また、「腰痛のほとんどが原因不明」という誤解も、放ったらかしにされがちな要因の一つだそう。

「こうした腰痛への誤った先入観から、まれに腰痛の裏に潜む重大な疾患に気づくのが遅れるケースもあるんです。とくに下肢症状で、しびれが出たり力が入らず筋力が低下している場合は、特に危険です。早急に専門医にかかり、診断に基づく治療を行うべきです」

原因を特定できない謎の腰痛はどうすればよい?

腰痛疾患のうち、医師の診察や画像などで原因が特定できる腰痛を「特異性腰痛症」と言います。

腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折、感染症や脊髄炎、ガンの脊椎転移などが代表的で、これは腰痛の全体の15%程度を占めます。

残りの85%を「非特異性腰痛症」と呼び、これはよく “謎の腰痛”や原因不明などとされるもの。実際、スポーツ選手がかかる腰痛のほとんどがこれです。しかし、非特異性腰痛症は、決して“謎”ではないと西良先生は言います。

「非特異性腰痛症とは、あくまで画像診断を急ぐ必要がないもので、多くは4〜6週間の保存療法で改善します。しかもMRIなどで検査すれば、ほとんどの場合は原因が特定できます」

なお、アスリートの場合、どうしても試合に出なくてはならなかったり、練習を休めない時もあると思います。そんな場合でも「たかが腰痛」と思わずに、ドクターに相談し、最善の方法をとることが大事だと西良先生は言います。「その後の競技人生に大きな影響を及ぼしかねませんから、すぐに専門医にかかってください」

西良浩一さん

徳島大学大学院 医歯薬学研究部 運動機能外科学教授。関節スポーツ医学や脊椎スポーツ医学の専門家。著書に『極めるアスリートの腰痛 100%を超える復帰』などがある

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