コラム 2023.09.11

運動器の健康 リレーエッセイ「花の下でのジョギングを楽しむ」松本守雄(慶應義塾大学病院長・整形外科学教授)

 早春の週末に近所の川縁の桜並木に咲いた花を見ながら、ゆっくりとしたペースでジョギングすることを毎年楽しみにしています。

 地球温暖化の影響で開花の時期が少しずつ早くなっているのが気にはなりますが、花の美しさは毎年変わりません。桜前線という言葉のとおり桜は南の方から咲き始め北上していくものと考えておりました。

 しかし、今はこれも温暖化のためか日本列島の北と南の地方の開花日が逆転することもあるようです。いろいろなことを考えながら走っていますと談笑しながら桜の花を見て歩く家族連れやカップルなどとともに、私と同じように還暦を過ぎたであろうランナーとすれ違うことも多くなってきました。体を動かすご高齢の方が増えていることを街の中でも実感します。

 スポーツ庁の調査では週1日以上の運動実施率は男女とも75-80歳代の方が最も高く80%を超えており、年々増加傾向です。内容はウオーキング、階段昇降、自転車、ジムトレーニングなど比較的強度の緩やかなものが多いようです。

 一方で、仕事や子育てに忙しい青壮年の年代の運動実施率はその半分の30%台であり、その時期の運動習慣が老年期の運動機能の低下を防止するという研究もある中で少し気がかりです。2019年に始まった働き方改革は2024年4月から医師や運輸、建築関係の職種にも適応されて基本的に全職種でのスタートとなります。働き方改革の目的は多岐にわたりますが、その一つに、長時間の過重労働による身体・精神の疲労の蓄積、健康障害さらには仕事におけるパフォーマンスへの悪影響などを回避することが挙げられています。

 仕事から解放された時間を自己研鑽に用いるのもよし、家族と過ごすのもよし、あるいは週末や帰宅後の運動に用いるのもよしとされています。青壮年期の一定強度の運動は心身の健康にプラスとされていますので、働き方改革を通じて得た時間を、体を動かすことに少しでも充当してもらえればと思います。

 ソメイヨシノの寿命は60年ともいわれていますが、きちんと環境を整え手入れをすると100年以上寿命を保ち、きれいな花を咲かせ続けることも十分可能のようです。ジョギングを終えたあとの適度な疲労となんとなく爽快な気分は日頃のストレスを忘れさせ、自分が若返ったような気にもなります。年を重ねても適度な運動を通じて動ける体を保ち、健康を維持できればと考えています。

 

松本守雄(まつもと・もりお)公益財団法人運動器の健康・日本協会 理事長、慶應義塾大学病院長・整形外科学教授

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