コラム 2026.10.29

【おすすめの1冊】1日30km超を歩き続けた江戸庶民の体の使い方とは?――『歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た「お伊勢参り」』

書名:『歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た「お伊勢参り」』

著者:谷釜尋徳

出版社:晃洋書房

 健康のために散歩を日課にしている人は多いでしょう。健康づくりのウォーキングの場合、1日1万歩(約6〜7km)がひとつの目安とされますが、実は江戸時代の日本人がその数倍の距離を連日歩き続けていたと聞くと、ちょっとびっくりしませんか?

 本書『歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た「お伊勢参り」』は、江戸時代に庶民の間で一大ブームとなった「お伊勢参り(伊勢神宮参拝)」を題材に、東洋大学法学部教授でスポーツ史を専門とする谷釜尋徳氏が、当時の人々の歩行能力と身体運動のメカニズムを、さまざまな史料から緻密に読み解いた一冊です。

 当時の旅日記を分析すると、東北地方から伊勢を目指した旅人たちの総歩行距離は2,000kmを優に超え、往復で数カ月に及んだといいます。驚くべきは、1日平均(男女)で約34km、時間にして約10時間も歩いていたという事実です。多いときには70kmも歩いたといいます。

 彼らはいかにして、この過酷な移動を成し遂げたのでしょうか。本書は歴史ロマンにとどまらず、江戸期の身体運動の仕組み、道具、街道の環境といった複合的な視点から、その秘密に迫ります。

 本書で紹介される江戸の人々の日常的な歩き方は、現代人にとっては当たり前の「背筋を伸ばし、かかとから着地して大股で歩く」フォームとは大きく異なっていました。前傾姿勢で爪先で歩き、足を引きずるように運ぶ。この歩き方は、普段の履物が、かかと部分を固定しない草履や下駄だったことに関係しているようです。

 歩きにくそうだな、と思いますよね。そこで登場するのが「草鞋(わらじ)」です。草鞋は紐でかかとをしっかり固定するもので、いわば長く歩くためのスポーツギア。現代のウォーキングシューズにも通じる役割を果たしていたといえるでしょう。

 また、草鞋と並んで旅人に愛された道具が「棒」です。棒は当時の人々にとって、かなり有用なギアだったようです。転倒を防ぐ杖になるだけでなく、荷物の運搬に使われたり、体重を預けて休息するときにも活躍したとか。

 その他、「走る」行為は江戸時代には誰もができる身体動作ではなく、飛脚や駕籠かきたちの特殊な技能であり、そのフォームも現代の走り方とはまったく異なっていた……など、本書では、往時の人々の暮らしや身体動作がさまざまな角度から紹介されています。

 歴史好きの方はもちろん、ウォーキングや登山を楽しむ方、効率的な体の使い方に関心のある方にもおすすめの一冊です。

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