運動器の健康・日本賞

2019年度 運動器の健康・日本賞

審査委員による選評

当協会では、今般の審査にあたり、下記の13名による審査委員会で厳正な審査を行いました。

審査委員
松下 隆
専務理事 福島県立医科大学外傷学講座主任教授 総合南東北病院外傷センターセンター長 
武藤 芳照
理事 東京大学名誉教授/東京健康リハビリテーション総合研究所所長
三上 容司
理事 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院副院長
齋藤 知行
理事 横浜市立脳卒中・神経脊椎センター病院長
竹下 克志
理事 自治医科大学整形外科教授
吉井 智晴
理事 東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科教授
杉村 光太郎
久光製薬㈱ 上席執行役員 医薬事業部事業部長
大久保 仁
第一三共㈱ 医薬営業本部 プライマリ・マーケティング部長
今給黎 明彦
エーザイ㈱ 製品戦略本部 疼痛・感染症グループ長
山本 寛和
小野薬品工業㈱ 新薬推進部部長
中村 幸生
日本イーライリリー㈱ 筋骨格・中枢神経事業部 製品企画部長
江波 和徳
共同通信社 オリンピック・パラリンピック室次長 編集局企画委員
中村 幸司
NHK解説委員室 解説委員
運動器の健康・日本賞 選評
応募事業・活動の名称
『リハビリキャラバン』をはじめとする運動器の疾患・障がいへの多面的な取り組み
応募団体・個人
北海道脊柱靭帯骨化症友の会

 今年の日本賞は津軽海峡をわたって北海道の脊柱靭帯骨化症(せきちゅうじんたいこっかしょう)友の会に贈られることとなりました。“せきちゅうじんたいこっかしょう”って何?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。患者数が多くない希少疾患であるゆえに治療法が確立していない疾患を難病といいますが、脊柱靭帯骨化症はせぼねの異常のために手足が動かしにくくなる難病の一つです。病状が進んで障害の強い方も少なからずいらっしゃる団体です。

 最近は一般の人に劣らず障害者の健康の重要性が広く認識されるようになってきました。また広大な面積に比較的人口の少ない北海道では都会のような充実した健康対策、リハビリテーションを受ける機会を失いがちです。そうしたなかで、北海道の脊柱靭帯骨化症友の会の方々は、「難病患者は皆兄弟」をスローガンにしてコミュニティーの育成や支援、医療講演会や相談会の開催、さらには公共機関への請願活動などの活動を行ってこられました。

 また過疎地でのリハビリテーション指導を目指した「家庭でできるリハビリキャラバン」を立ち上げ、理学療法士とともにリハビリ機器をバンに載せて北海道全土を回っています。網走・遠軽(えんがる)での会では片道5時間30分、釧路での会では4時間をかけて通い、リハビリの指導とともに地域の保健師やケアマネージャー、看護学生なども含めた啓蒙を展開しておられます。さらにこの友の会の多面的な活動として医療者や研究者と連携し脊柱靭帯骨化症の臨床研究への協力、臨床ガイドラインの作成への貢献、遺伝子研究や先端研究であるiPS研究への協力などがあります。

 一難病という希少グループが、自らの病気に留まることなく難病全体、そして地域全体の健康向上を目標として行っている活動は感銘的であり、かつ極めてユニークです。オリンピック・パラリンピックを目前にした2019年度に相応しい日本賞となりました。

竹下 克志 審査委員
運動器の健康・優秀賞 選評
応募事業・活動の名称
あんぱんくらぶ
応募団体・個人
長野保健医療大学 山本 良彦

 「みんなちがって みんないい」と、詩人金子みすずは表現しました(「私と鳥と鈴と」)。

 子どもには、一人ひとりそれぞれ違った姿・形・顔があり、個性があります。からだの特徴も心の持ちようも、歩み方もしぐさも違い、成長・発達の仕方もそれぞれ違います。「あんぱんくらぶ」は、そうした子どもたちへの温かなまなざしの下、ダウン症児を長年見守り続け、医療と教育を融合した先進的な地域社会活動の取り組みの名称です。

 長野県北信地区の「ダウン症ひまわりの会」と長野県保健医療大学などが連携協力して2004年から14年間にわたって、57回に及ぶダウン症児の体力・運動能力測定・評価を行ってきました(参加児:のべ419名)。その目的と効果は二つ。一つ目は、ゆっくり成長発達するのが特徴のダウン症児が、実は確かな形で着実に成長・発達していることを家族に気づいてもらうこと。

 二つ目は、そこに参加する医療系の学生たちが、ベテランの理学療法士・作業療法士のプロの仕事ぶりにじかに接し、実体験から学ぶと共に、ダウン症児や広く障害のある子どもたちへの理解を深めること。

 地元の大学が場所を提供し続け、療法士や学生がボランティアで参画し、無料でこの活動を行い、会の最後には、「アンパンマン体操」を皆で踊って盛り上がり、集合写真を撮影する流れです。ダウン症児の運動器の健康を中核として、共生(共に生きる)と共育(共に育み共に育まれる)の思想を具現化した貴重な事業であり、優秀賞にふさわしいと高く評価されました。

武藤 芳照 審査委員
応募事業・活動の名称
宮崎県で取り組むロコモティブシンドローム対策事業
応募団体・個人
宮崎大学医学部整形外科教室

 宮崎県では、宮崎大学医学部整形外科学教室を中心に、行政、医師会、教育委員会などを巻き込んで、「健康寿命日本一」を目指す取り組みが活発に行われてきた。市民を対象に、ロコモ検診、ロコモ度テストを行い、また、新たな歩行測定機器も開発した。小中学生には運動器検診だけでなく運動器機能改善のためのストレッチ指導などを行い、子供から高齢者まで幅広い層の運動器の機能評価・改善活動に取り組んできた。メディアへの露出も活発に行い、ロコモ啓発、改善活動を中心に幅広く運動器の健康増進事業に取り組んでおり、全国各地域のモデルとなる事業が展開されている。優秀賞にふさわしい事業である。

三上 容司 審査委員
運動器の健康・奨励賞 選評
応募事業・活動の名称
地域でのリエゾンロコモ予防
応募団体・個人
特定非営利活動法人名古屋整形外科地域医療連携支援センター

 名古屋整形外科地域医療連携支援センターでは、多施設多職種が連携して行う運動器の「地域包括ケア」の一つとして「地域でのリエゾンロコモ予防」を行っている。その具体的活動は、1)大腿骨頸部骨折の地域連携パスによる治療と二次骨折予防、2)地域医療連携施設スタッフ向けの転倒予防や骨粗鬆症予防を軸にした標準的な同一の指導、3)ロコモ予防意識の継続的な啓発を促すための年2回の市民公開講座「八事ロコモ健康教室」の開催、4)保健センターなどと協働した講師派遣やセミナーの企画などの行政との合同事業、5)地域で統一したロコモ・サルコペニア・フレイルのチェックを行う「八事ロコモ外来」の創設、など多岐にわたっている。この活動は、八事地区の市民や地域の運動器疾患を扱う医療関係者や介護者に、ロコモ予防による健康寿命の延伸を意識付けることに貢献しており、奨励賞に値する。

松下 隆 審査委員 
応募事業・活動の名称
"京(今日)からロコモチャレンジ!~水中ウォーキングを中心とした運動器の健康増進への取り組み~
応募団体・個人
医療法人社団 淀さんせん会 金井病院

 この活動は地域病院が中心となり、住民の方々の健康増進活動の啓発を目的に、高齢者の運動器への負担の少ない水中ウオーキングに着目し、毎月地域住民の方々を対象に実践されている内容です。10年以上の長期にわたる活動実績があり、これまでに多くの参加者に正しい歩き方や歩く姿勢を指導し、参加者に歩く喜びや動ける楽しみを実感させ、運動意欲を向上させるなどの成果を上げています。この活動が、参加者からも意見を聞きながら、医師、理学療法士、看護師、薬剤師、社会福祉士の多職種協働で取り組まれていること、さらに京都マラソンウオーキング、サイクリング、地域・里山ウオーキングとプログラムを拡大し、地域の魅力を再発見しつつ地の利を活かし、健康を増進させるなどの積極的な活動へと進展させていることが高く評価されました。

 疾病予防には、運動の正しい理解と継続による運動器を健全に維持することが、全身の健康にとって重要であることを、全国の他の地域にも大いに発信されることを期待しています。

斎藤 知行 審査委員
応募事業・活動の名称
がん患者の運動器の健康増進プロジェクト:がんロコモを予防して、がんに負けない社会をつくろう!
応募団体・個人
岡山大学病院整形外科

 がんについて、患者や社会が医療に求める観点は多岐にわたる。岡山大学病院整形外科は、患者のQOL向上に注目して、「がんロコモ」対策を進めた。早い段階から治療と並行して実施し、科学的検証に基づいてガイドラインを作成、そうした成果を大学病院の患者だけでなく、医療関係者や市民といった幅広い対象に普及啓発を行った。

 がん対策として治療法の向上は当然のことながら望まれるが、患者にとって自らの力で日常生活を送ることは基本であり、前向きに生きることにつながる。医療に期待することの礎とも言える。運動器の健康を通して、がん患者・家族の支えとなるよう、取り組みのさらなる進展に期待したい。

中村 幸司 審査委員
応募事業・活動の名称
こみゅスポ障がい者スポーツ事業「重度障害者や医療的ケアが必要な児・者に対する健康増進活動の取組み」
応募団体・個人
一般社団法人こみゅスポ研究所

 重い障害をお持ちの方や医療的なケアが必要な方がスポーツしたいと思った時、多くのバリアに心が折れてしまう。貴団体は「そのような人々に寄り添い、ポンと背中を押す!そして自分たちも含めてみんなが自然体で楽しむ」活動を実践し、更にその活動は「想い」にとどまらず、医療やスポーツ、福祉の専門家の確かな目で参加者の心地よさや安全を裏付けている。東京オリンピック・パラリンピックを一つの契機として、誰もがスポーツが楽しめる日本にしていくために、今後の発展を期待したい。

吉井 智晴 審査委員
応募事業・活動の名称
住民主導の運動プログラム開発とロコモ啓発リーダー育成活動~多世代交流法を用いた筋トレ・舞踊を通した地域のつながりづくり~
応募団体・個人
NPO法人健康応援・わくわく元気ネット

 住民主導の運動プログラム開発とロコモティブシンドローム啓発リーダー育成の活動である。この活動は、本協会で掲げている運動器の健康増進を目指す基本理念に合致しており、ロコモティブシンドロームの啓発を中心として、東日本大震災被災地への支援、多世代交流などの社会貢献活動への寄与が評価できる。

 ダンベル体操パフォーマンス「俺たち男前」やダイナミック琉球「よみがえる命」は、多世代交流を通じて、楽しみながら、①ロコモ世代である高齢者に対するロコモ予防やQOLの改善、②若年層やロコモ予備軍である壮年・中高年者に対する啓発・教育活動の2つを同時に図ることができている。上記の体操やダンスが全国に拡がり参加者が増えること、またロコモ啓発リーダーが 育成されることにより、将来的にロコモ人口の抑制や健康寿命の延伸に寄与できることを期待したい。

大久保 仁 審査委員