運動器の健康・日本賞

2020年度 運動器の健康・日本賞

審査委員による選評

当協会では、今般の審査にあたり、下記の13名による審査委員会で厳正な審査を行いました。

審査委員
松下 隆
専務理事 福島県立医科大学外傷学講座主任教授 総合南東北病院外傷センターセンター長 
稲垣 克記
理事 昭和大学病院附属東病院病院長
竹下 克志
理事 自治医科大学整形外科教授
三上 容司
理事 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院副院長
武藤 芳照
理事 東京大学名誉教授/東京健康リハビリテーション総合研究所所長
吉井 智晴
理事 東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科教授
早野 晶裕
エーザイ㈱ マーケティング推進本部プライマリケアグループグループ長
大久保 仁
第一三共㈱ 医薬営業本部 プライマリ・マーケティング部長
杉村 光太郎
久光製薬㈱ 上席執行役員 医薬事業部事業部長
山本 寛和
小野薬品工業㈱ 新薬推進部部長
横尾 岳
日本イーライリリー㈱ 筋骨格・中枢神経事業部 製品企画部長
江波 和徳
共同通信社 オリンピック・パラリンピック室次長 編集局企画委員
中村 幸司
NHK解説委員室 解説委員
運動器の健康・日本賞 選評
応募事業・活動の名称
幼児が楽しく体を動かす日々の保育につながる体力測定「わくわくうんなんピック」
応募団体・個人
島根県雲南市 子ども政策局 子ども政策課

 現代の子どもは「遊ぶ場所、遊ぶ仲間、遊ぶ時間」の減少により体を動かす機会が減少しており、とりわけ中山間地域では深刻な問題になっている。このような地域のひとつである雲南市では、平成25年に「雲南市幼児期運動プログラム」を策定し、幼児期からの運動遊び・身体活動の促進に積極的に取り組んできた。こうした取り組みの成果を評価するために考案されたのが、今回受賞した事業である「わくわくうんなんピック」である。この名称は3・4・5歳児がわくわく元気よく参加できるように、またオリンピック・パラリンピック精神を継承して欲しいとの願いを込めて名付けられた。

 「わくわくうんなんピック」の特徴は次の5点に集約できる。

1. 日々の運動遊びによって獲得される基本動作である「走・投・跳」を、25m走、ボール投げ、立ち幅跳び、バランス歩行で評価する
2. 測定前は測定と関連の深い動作を取り入れた「運動遊びの特設コーナー」を作って測定前に準備運動を兼ねて子どもの意欲や興味を引き出し、測定時に最大能力を発揮できるようにする
3. 測定後は参加者全員に手作りの「金メダル」を渡して、楽しく全力で取り組んだ証とする
4. 測定結果は、参加保育施設を通して保護者にフィードバックすることによって、子どもの体を育てることへの意識が家族ぐるみで高まることを期待する
5. 測定結果は、家族にフィードバックするだけでなく、地元大学等と連携して集団的かつ経年的な分析も行なって、より精度の高い運動プログラムの効果検証に繋げる

 この活動によって、子どもの健やかな成長を地域ぐるみで支え、雲南市が「運動器の健康な街」になることが期待できるので日本賞に選定した。

松下 隆 審査委員
運動器の健康・優秀賞 選評
応募事業・活動の名称
「これで防げる 学校体育・スポーツ事故」
応募団体・個人
特定非営利活動法人 Safe Kids Japan

 子どもたちの心身の成長・発達のために、学校体育・スポーツの身体活動は重要であり、生涯にわたる運動習慣の形成・獲得という中・長期的な効果もあります。

 一方で、それらの活動に伴う子どもの事故、とりわけ頭部外傷や脊椎・脊髄損傷をはじめとする重篤な傷害をきたす事故や死亡事故が発生していることも事実です。

 学術研究の立場から、そうした学校体育・スポーツ事故の分析や予防への提言は過去に数多くなされていますが、社会的課題の解決という観点・立場からの取り組みは、極めて少なかったのが実状です。

 本団体は、単に学術研究や科学的分析にとどまらず、そうした事故の効果的な予防策を学校現場に普及・啓発・浸透させ、同じような重大事故が発生しないようにとの熱い思いを具現化した社会的取り組みです。

 多職種連携により、事故の分析から始まり、実証実験等をも踏まえて、具体的な提言を示し、さらにそれらを社会啓発する教育事業を積み重ね、国・自治体等の行政やマスメディアをも動かし、学校現場の意識を変える成果を挙げてきました。

 子どもたちのために「予防に勝る治療はない」を具現化した社会的対応として、高く評価され、「優秀賞」に誠にふさわしいと判断されました。

武藤 芳照 審査委員
運動器の健康・奨励賞 選評
応募事業・活動の名称
地方都市型前十字靭帯再建術リハビリネットワークグループ「膝小僧」の取り組み
応募団体・個人
岐阜大学医学部整形外科

 前十字靭帯(ACL)損傷の治療は、手術および周術期リハビリテーションはそれぞれの専門性が高いだけでなく、お互いの連携が極めて重要である。地方都市では、専門医の手術は受けることができても、長期にわたる周術期において、必ずしも専門医のアドバイスを受けられるわけではなく、膝機能の回復やスポーツ復帰が安定しないこと、更に膝二次損傷などが問題点となっている。それらの課題に対して、ひとりひとりの患者に応じたリハビリテーションプログラムやスポーツ復帰基準などを標準化し、「ACL損傷治療成績の地域格差解消する」地域ネットワークの組織づくりに取り組んでいる点が評価された。リハビリテーションプログラム冊子には、トレーニングメニューだけでなく、日常生活上の注意やスポーツ復帰に向けて自己管理できるよう細かな配慮がなされており、患者と共に歩む姿が伺える。今後、益々の活動拡大とその成果に期待し、奨励賞の受賞となった。

吉井 智晴 審査委員 
応募事業・活動の名称
高齢者における機能的自立と健康づくりのための地域型運動の普及と展開―ウエルビクスの実践―
応募団体・個人
竹島 伸生(朝日大学保健医療学部健康スポーツ科 学科長・教授)

 竹島氏は、レジスタンス、柔軟性、バランスに歩行を加えた複合型運動をウエルビクスと名づけ、2002年から氏自身あるいはその支援者が全国各地に出かけ、教室を開催し、高齢者に指導を行ってきた。この活動は、高齢者の「機能的自立維持と長期に継続できる運動の習慣化を狙いとした地域型運動(community-based exercise: CBE)」の普及を目指したものであり、その後の調査で筋力、柔軟性、敏捷性などの運動効果が長期に持続されていることが判明した。長期間にわたる精力的な活動は奨励賞にふさわしい。今後さらに、より多くの高齢者の「運動の実践と継続」が促進されることを期待する。

三上 容司 審査委員
応募事業・活動の名称
自律した健康づくりに向けた生活習慣改善
応募団体・個人
NPO法人Lixer

 NPO法人Lixerは、独自の「健康バンド運動」による自律した健康増進の啓発および健康づくりに向けたコミュニティ形成に対する活動を実施している。この活動は、本協会が掲げている運動器の健康増進を目指す基本理念に合致しており、市民の運動機能の維持や一次予防に向けた生活習慣改善に繋がることが期待でき、市全域の健康に対する意識・行動の向上への寄与が評価できる。

 自治体が保有・運営する施設を利用した「健康バンド運動」教室の開催を通じて、加齢に伴う筋量・筋力の低下を防ぐとともに、食育サポートを行い、生活習慣改善に効果を上げている。加えて、複数のボランティア団体が形成され、地域住民が自律して健康バンドのサークル活動に取り組むという相乗効果も得られている。

 この「健康バンド運動」が普及し参加者が増えること、また広範囲にコミュニティが伝播することによって、将来的に運動器疾患・障害の抑制や健康寿命の延伸に寄与することを期待したい。

大久保 仁 審査委員
応募事業・活動の名称
スクワット・チャレンジ~地域での筋力運動のための場所づくり~
応募団体・個人
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム

 要介護の手前の状態であるフレイル。それをさらに手前の段階で予防することは大切である。東京都健康長寿医療センター研究所の社会参加と地域保健研究チームは、筋力運動を継続する場所づくりとして「スクワット・チャレンジ」の活動を行っている。

 センサーやタブレットなどで構成される比較的手軽なシステムを使うことによって、実践回数を表示し、競うこともできるようにしている。これにより、筋力トレーニングの機会を提供するだけでなく、実施するお年寄りのモチベーションが向上し、周囲の人たちとお互いの健康状態を気遣うコミュニケーションの場に結びつけているところが特徴的で、特に評価したい点である。

 フレイル予防は、本人の健康はもちろん、先行きが懸念される社会保障制度の維持という観点からも注目される。今後は各個人の下肢筋力向上にどの程度つながっているのかなど、さらに検証を進めながら、一層効果のある取り組みへと展開することを期待したい。

中村 幸司 審査委員