運動器の健康・日本賞

2022年度 運動器の健康・日本賞

審査委員による選評

当協会では、今般の審査にあたり、下記の12名による審査委員会で厳正な審査を行いました。

審査委員
松下 隆
専務理事 福島県立医科大学外傷学講座 主任教授/総合南東北病院外傷センター センター長/新百合ヶ丘総合病院外傷再建センター センター長 
稲垣 克記
理事 昭和大学病院附属東病院 病院長
竹下 克志
理事 自治医科大学整形外科 教授
三上 容司
理事 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院長
武藤 芳照
理事 東京大学名誉教授/東京健康リハビリテーション総合研究所 所長
吉井 智晴
理事 東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科 教授
早野 晶裕
エーザイ㈱ エーザイ・ジャパン統合戦略本部 プライマリーケアグループ グループ長
奥田 英邦
第一三共㈱ マーケティング本部プライマリ・ マーケティング部 部長
鶴田 光利
久光製薬㈱ 執行役員 医薬事業部 事業部長
伊藤 通
小野薬品工業㈱ 営業本部プライマリー製品企画部 部長
江波 和徳
共同通信社 オリンピック・パラリンピック室次長 編集局企画委員
中村 幸司
NHK解説委員室 解説委員
運動器の健康・日本賞 選評
応募事業・活動の名称
北海道野球肘検診
応募団体・個人
門間太輔(北海道大学病院 スポーツ医学診療センター 助教)

 北海道大学病院整形外科では、2010年から北海道野球協議会と協力して、北海道野球肘検診を続けてきた。2015年からは日本ハムファイターズや札幌ドームの協力も得、2017年からは活動を北海道内各地に広げることによって参加者は1,000人/年を超えている。野球肘検診はその重要性が注目され近年多くの地域で行われているが、この北海道大学病院整形外科の検診の特徴的な点は小児科医の協力を得て肘関節検診とともに心臓超音波検診も行なっている点である。このことによって心臓の異常が発見でき野球に限らずすべてのスポーツ時の突然死の予防につながっている。これは成長期の子供の健康を運動器の健康だけでなく全身の健全な発達にも着目した極めてユニークで有効な試みである。また理学療法士による関節可動域調査やストレッチエクササイズの指導も行なっており、検診だけでなく障害の予防にも積極的に取り組んでいる。また野球肘については検診以外に、北海道各高等学校の監督やコーチに対してアンケート調査を行うことで野球肘検診の重要性を訴えて子供たちが野球を長く続けられるよう努めている。現時点でもこの活動の協力者は年々増加しており、応募者らは今後もこの活動を更に広げることを目指している。

 この活動は子供たちの運動器障害を予防し、長くスポーツを楽しめるよう運動器の健全な発達を推進する事業であり、運動器の健康・日本賞に相応しいと考えた。

審査委員:松下 隆
運動器の健康・優秀賞 選評
応募事業・活動の名称
ロコケン
応募団体・個人
医療法人財団五省会

 人生100年時代を考えるとき、平均寿命の延伸だけでなく、元気に自立して過ごせる期間である健康寿命の延伸が重要であるが、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は健康寿命を短くする原因の一つになっている。貴団体は、その課題に対して、ロコモを「見」聞をしよう!「健」康寿命を伸ばそう!Let’s「検」診!=「ロコケン」の取り組みとして、大きな成果をあげている。

 ロコモの予防、啓発活動は日本全国各地で行われているが、貴団体の特筆すべきことは3つ。まず始めに、キャッチフレーズが大変分かりやすい。知識として知ること、実行することとその継続、そして何よりも早期発見が重要であり、大切なことを一言で表現しており対象者に馴染みやすいと思われた。2つめは、対象を高齢者だけでなく、若年層・子育て世代を含めた全世代としているところである。現代社会の便利さ、加えてコロナ禍により、年齢に関わらず運動不足は共通の課題となっており、さらに、健康な身体作りは一朝一夕にできるものではないため、高齢者になる前から、我が事として考えることのできる仕組みは効果的である。3つめは、地元企業とのコラボである。働き盛り世代の健康へのアプローチは、個人への還元だけでなく、心身の不調による生産力の低下、離職率増加の改善に寄与するなど職場全体への還元も期待できる。

「ロコケン」は、地域全体の健康への機運醸成にも繋がり、未来志向の活動が大変印象に残った。益々の活動拡大とその成果に期待し優秀賞の受賞となった。

審査委員:吉井 智晴
応募事業・活動の名称
みずから(水から・自ら)運動器の健康に取り組んだ四半世紀のプール事業
応募団体・個人
社会福祉法人みまき福祉会・温泉アクティブセンター

 長野県東御市にある社会福祉法人みまき福祉会・温泉アクティブセンターは、1995年に開設されました。温泉を利用したプール、歩行用流水、ジャグジーを有し、これらを利用した中高年者むけの水中運動による関節痛軽減のリハビリテーションや健康づくりが行われてきました。また、子供たちの体力向上・スポーツ障害予防のための水泳教室や水中運動も行われてきました。一方で介護職員等の勤労者の腰痛予防・改善にも活用され、健康経営にも貢献してきました。さらにプール運営が障がい者の就労の場となり、障がい者の生き甲斐・働き甲斐にもつながっています。このような地域ぐるみの地道な活動が評価され、2019年には地域内に国内唯一の本格的な高地トレーニング用屋内長水路プールが設置され、東京オリンピック・パラリンピックの日本代表選手の活躍にも貢献しました。プールは単に水泳を行うだけの施設ではなく、水中歩行や水中運動を通じて、だれでも安全・安心で効果的な運動が実施できる場であり、このことを通じて地域住民の健康づくりに貢献してきました。本事業はまさに、みずから(水から・自ら)運動器の健康に取り組んだ事業であり、優秀賞にふさわしい取り組みです。今後の事業継続とさらなる拡がりが期待されます。

審査委員:三上 容司
運動器の健康・奨励賞 選評
応募事業・活動の名称
1分体操から始める 歌って楽しい体操プログラム 実践マニュアル
応募団体・個人
吉中康子(京都先端科学大学特任教授・NPO法人元気アップAGEプロジェクト副理事長)

 本取組みは高齢者が気軽に動くことを楽しみ、継続するきっかけとなるプログラムの開発と介護予防指導者養成を目的としているものである。体操は曜日毎に「腕・体幹・脚、全身を動かす」「楽しく継続できる」「1分から始まる」をキーワードとしてプログラム構成されており、運動習慣が定着していない高齢者でも気軽に取り組めるようになっているため、超高齢化社会における生活習慣の改善に貢献している。「歌って楽しい」とあるように使用している曲は「ふるさと」や「うみ」など日本人に馴染みがあり、参加者全員で歌うことで一体感を創出するとともに心身の健康を高め幸福感も得られるよう工夫されている。

亀岡市・京都先端科学大学・NPO法人元気アップAGEプロジェクトの三者の協力によって開催された養成講座を修了した住民の有志である介護予防サポーターが本プログラムを実践し、地域の参加者とともに介護予防に取り組んでいる。この取組みがさらに拡がり、動くことを楽しむ高齢者が増えることで健康寿命の延伸につながることに期待したい。

審査委員:鶴田 光利
応募事業・活動の名称
コロナ禍での高齢者の対面実践セミナーとオンライン体操教室のハイブリッド健康指導
応募団体・個人
特定非営利活動法人えひめ高齢者ヘルスプロモーション研究会

 新型コロナ感染症の拡大に伴い、活動が制限されるケースが各地で広がっている。このため、ロコモティブシンドロームやフレイルの危険性が高い高齢者の活動にも影響が出ている。愛媛県松山市を拠点に活動しているNPO法人・えひめ高齢者ヘルスプロモーション研究会では健康づくりの推進とともに、その担い手となる地域リーダーの活動を支援・育成してきたが、コロナ禍での事業として新たな試みに取り組んでいる。

 在宅での運動を推進するために「おうち de 体操」と題したリーフレットを5千部作成し、ホームページからのダウンロードを可能とするとともに、戸別訪問での配布を行っている。また、オンラインでの研修会を行うことによって高齢者の情報交換も実施している。過疎地を含めた戸別訪問ではおすすめの運動の実施を記した小冊子を利用した健康づくりも推進している。今後は1人暮らしの高齢者らを視野に入れ、スマートフォンを活用した事業も展開していく。活動自体は昨年1月開始と新しいが、時代に即した取り組みとして支持された。

審査委員:江波 和徳
応募事業・活動の名称
少年野球選手における多職種連携シームレスメディカルチェック
応募団体・個人
KKR北陸病院障害予防サポートチーム

 2016年度に石川県内の高校野球選手1,115名への大規模調査を実施し、現在の投球障害に関連する因子として小中学時代の既往(投球障害)を導き出した。本事業は育成年代からの早期介入によりスポーツ障害の発生を低下させ、生涯を通じてスポーツを楽しむ環境を作るための重要な活動である。

 その活動は、選手を中心に医師、理学療法士のみならず、看護師、ヨガ・ピラティストレーナーを加えた多職種が連携し、障害発生リスク因子の抽出からフォローまで切れ目ないサポート体制が整えられている。そしてスポーツ傷害予防を目的としたコンディションチェックのFunctional Movement Screenを取り入れ、選手個々に「弱点克服シート」を作成し、気づきと障害を予防するための行動変容を促している点も特徴的である。

 2017年から少年野球チームの延べ196名にメディカルチェックを実施し、活動の幅が広がってきている。今後さらにこの活動が普及拡大することで、健康寿命の延伸に繋がることを期待する。

審査委員:早野 晶裕
理事長特別賞
応募事業・活動の名称
コウノトリ義足プロジェクト~人間も動物も健康に暮らせる環境へ~
応募団体・個人
神戸医療福祉専門学校三田校 義肢装具士科4年制

 コウノトリ(鸛、学名Ciconia boyciana)は、主に東アジアに分布し、日本では特別天然記念物(絶滅危惧種)に指定されています。ヨーロッパには、古くより、「赤ん坊は、コウノトリが嘴で運んでくる」という言い伝えがあります。体重3~5キログラム、その翼は広げると約2m、後肢(脚)は長く赤い色をしています。寝る時も含めて、24時間立ったまま生活するコウノトリにとって、二本の脚が健常であることは生活、生命に関わる重大事です。

 2021年1月、おそらく事故により左脚の下半分を失ったコウノトリ(メス、個体識別番号J0325)が保護され、獣医師と義肢装具士の工夫と尽力により、特製の義足作りが行われ、実際に仮義足が装着されました。受傷後負担をかけ続けていた右脚をかばうように、コウノトリが義足に体重をかける姿が見られました。本義足の制作・装着と本格的なリハビリテーションの途中、残念ながら、肺疾患のため死亡しました。

 動物の運動器の要である脚の欠損に対して、やさしいまなざしで人の医療の技術と経験を応用し、創意工夫をこらして創出された「オンリーワン」のコウノトリの義足作りの活動は、短い期間ではありましたが、「特に社会的に際立った事業活動」(審査規程第7条4項)として高く評価され、本賞創設初の表彰として誠にふさわしく、満場一致で選出されました。

 本協会に、運動器の健康の広がりと深さという新たな「幸せ」をコウノトリが運んできてくれました。

審査委員:武藤 芳照