2026年度 運動器の健康・日本賞
審査委員による選評
当協会では、今般の審査にあたり、下記の11名による審査委員会で厳正な審査を行いました。
- 審査委員
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三上 容司専務理事 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院 病院長浅見 豊子理事 医療法人安寿会 田中病院 理事長/佐賀大学医学部 臨床教授竹下 克志理事 自治医科大学 医学部整形外科 教授武藤 芳照理事 東京大学名誉教授/(一社)東京健康リハビリテーション総合研究所 所長吉井 智晴理事 東京医療学院大学 保健医療学部 リハビリテーション科 教授田尻 康人理事 地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立広尾病院 病院長早野 晶裕エーザイ㈱ エーザイ・ジャパン 製品戦略推進部 副部長柴田 展司第一三共㈱ 日本事業ユニット 医薬営業本部 プライマリ・マーケティング部 骨関節・ペイン・感染症グループ グループ長鶴田 光利久光製薬㈱ 執行役員 医薬事業部 事業部長江波 和徳共同通信社 編集局スポーツ企画室委員小澤 正修NHK解説委員室 解説委員
- 運動器の健康・日本賞 選評
- 応募事業・活動の名称
- “農業従事者の背骨を守る” 腰痛・運動器検診 in 北海道芽室町
- 応募団体・個人
- 旭川医科大学整形外科 小林徹也 他 北海道社会事業協会介護老人保健施設ふらのリハビリテーション科 千葉恒 他
まず、事業活動名のなかの“背骨を守る”の文字が目に飛び込んできました。脊椎でも脊柱でも腰椎でもなく、背骨とは。イイね!これはわかりやすい!!
そのタイトルに惹かれるまま応募書類を読み進めました。そこには、地域の農業従事者に対して1992年から町役場と協力して腰痛検診を実施してきたこと、10年以上継続して観察している参加者が200名を超えていること、親子二世代にわたって継続している参加者もいることなどが書かれていました。大変息の長い活動です。
また当初、脊椎を専門とする整形外科医により始められた事業に、途中から理学療法士、下肢を専門とする整形外科医も加わって、住民を一人一人、個別に総合判断する体制が構築されました。そこでは、自宅で実施可能な運動の指導が行われ、「自分の背骨を自分で守る」意識が醸成されました。
さらに、検診で得られたデータは、医療従事者のみならず、地域住民への講演会にも活用されています。時間とともに活動の輪がどんどん広がっていく様子がよくわかりました。また、この長期間にわたる継続的な活動により、過去10年間で参加者の腰痛が軽減していることが明らかになりました。
現在では、当初の枠を超えて、腰痛検診にとどまらない運動器検診の要素も取り入れた活動となっています。地域に密着した長期間にわたる独自の、そして粘り強い活動により、確かな成果が得られた事業です。選考委員会でも全委員から高い評価が得られました。まさに、運動器の健康に資する活動として日本賞にふさわしい事業と判断いたしました。
審査委員:三上 容司- 運動器の健康・優秀賞 選評
- 応募事業・活動の名称
- 富士富士宮地区における野球肘検診15年の歩みと継続による地域貢献
- 応募団体・個人
- 医療法人社団英志会富士整形外科病院
本事業は、成長期の野球選手に多発する野球肘、特に進行すると手術を要する離脱性骨軟骨炎(OCD)の早期発見・治療・予防を目的に、地域医療モデルとして15年間継続して実施されている。
超音波検査や理学検査、必要に応じてX線検査を組み合わせた野球肘検診を毎年シーズンオフに実施し、医師、理学療法士、看護師、指導者、保護者が連携し、従来の『痛みが出てから受診する』という考え方から、『予防のために検診を受ける』という意識への変革を地域に根付かせることに成功した。15年間で延べ3,973名の検診を実施し、そのうち69名(1.8%)のOCDを早期発見、さらに97%という高い二次検診受診率を達成した。
これにより、重症化や手術回避に大きく寄与し、成長期の子どもたちが安全かつ健全にスポーツを続けられる環境づくりに大きく貢献している。本事業の活動は毎年継続的かつ広範囲に多数の対象者に実施されている点も高く評価されている。
また、地域医療とスポーツ指導、家庭の三者が連携する独自の体制を構築し、地域における障害予防の文化を醸成した点も評価される。本協会の基本理念である「動く喜び、動ける幸せ」を体現し、地域の子どもたちの健やかな成長とスポーツ継続を力強く支えるという持続的かつ成果の明確な取り組みとして、今後もさらに充実させることにより、地域全体が健康で活力に満ちた社会となることを期待し、この度、優秀賞として評価された。
審査委員:柴田 展司- 応募事業・活動の名称
- どんどこ!巨大紙相撲大会雷電東御場所
- 応募団体・個人
- どんどこ巨大紙相撲大会実行委員会
長野県東御市は、“史上最強”と呼ばれた江戸時代の力士、雷電為右衛門の故郷である。地元の英雄でもある雷電をたたえ、巨大な紙相撲を通して自然に楽しく運動に取り組むことができるのが本事業だ。用いられるのは、雷電の身長と同じ1メートル97センチもある巨大な段ボール製の力士である。参加者は段ボールの切り抜きや塗装など、全身を使う作業で力士を制作し、さらに対戦では腕や腹筋など上半身の運動器をフル活用して土俵を叩き、優勝を争う。
娯楽が多様化する現代は、スポーツそのものが選択されにくい時代でもある。2017年から原則として毎年行われている本事業には運動を継続させる「楽しさ」という要素が十分含まれ、地域の子供からお年寄りまで、参加する250人から400人全員が自然にコミュニケーションをとりつつ、運動へいざなわれていく。東御市は冬の寒さが厳しく屋外での活動が制限されるが、このように屋内で地元の歴史に触れながら、地域の様々な世代が一体となって、楽しさを忘れずに体を動かす取り組みは、本協会の基本理念である「動く喜び動ける幸せ」に合致すると考えられる。本事業による具体的な効果・実績といった課題はあるものの、アイディアそのものが非常に素晴らしく、「優秀賞」にふさわしいとして高く評価された。
審査委員:小澤 正修- 運動器の健康・奨励賞 選評
- 応募事業・活動の名称
- 成長期運動器傷害・機能不全予防を目的とした学校活動下での取り組み
- 応募団体・個人
- 浜松市リハビリテーション病院 スポーツ医学センター
成長期の子どもたちへの運動器の健康づくりは、まずは子どもたち本人、そして子どもたちを支援するご家族、学校関係者への協力が効果的である。貴団体は運動器検診の制度化により始まった運動器機能評価を参考に予防に力を入れてきた。さらにその支援は、より具体的かつ専門的になり、学校に定期的に理学療法士を派遣する事業へと発展した。この流れは、本会が目指す認定スクールトレーナー事業の方向性と一致している。
子どもたちの潜在能力は大きい。自らの身体の状態に気づき、理解することは、自分自身だけでなく周りの人を大切にする心を育み、健やかな成長への第一歩となる。運動器の健康づくりを通して子どもたち一人ひとりの成長に寄り添い、安心して学び、挑戦できる環境を継続的に支えてきた貴会の取り組みは、まさしく本会の理念と合致する。ここにその功績を称え、今後のさらなる発展を願い、この度の受賞となった。
審査委員:吉井 智晴- 応募事業・活動の名称
- 日常環境における身体活動促進のための「環境実装プロジェクト」
- 応募団体・個人
- 岡山医療生活協同組合 総合病院岡山協立病院
新型コロナウイルス感染症の流行により、身体的活動量の低下を余儀なくされ、運動の「場」だけでなく「習慣」そのものが失われたことから、運動を続ける前提が崩れたこという仮説のもと本事業が始まった。
自宅や病院、立位が困難な状態など、様々な環境でも自然に運動が継続できる仕組みづくりを進め、理学療法士による専門的判断に基づく運動支援を提供するフィットネス事業は、年間700名が参加するまでに発展した。さらに、病棟・待合室・自宅向けに制作した運動体操動画を医療機関内320か所に設置し、累計1.8万回以上再生されるなど、多くの人が運動に触れる環境を構築した。
これらの取り組みは、転倒リスクの軽減やバランス機能向上にも成果が認められ、本会の基本理念である「動く喜び 動ける幸せ」につながる取り組みとして高く評価される。今後も独自のユニークさを展開し、より多くの人々へ貢献いただきたい。
審査委員:早野 晶裕
