コラム 2021.03.02

運動器のリレーエッセイ「健康美って何?」浅見豊子 (佐賀大学医学部附属病院リハビリテーション科診療教授)

 

「健康 」(羅: salus、独: Gesundheit、英: health)とは、健体康心という中国の「易経」の中にある言葉に由来しているとされています。

 「健」という漢字は、イ(人)と建に分けられ、建は聿(筆の原字で、手で筆を立てることをさす)と、「歩く」という意味からなり、身体を立てて歩く行動力をさし、自らが立ち上がるという意味も持ちます。また、人を建てると書くことから人としてしっかりしている、人をしっかりとさせる(人をたてる)という意味を持ちます。

 一方、「康」は「庚」と「米」を組み合わせた漢字です。「庚」は脱穀に使う午(きね)という道具を両手で持っている様子を文字にしたものと「米」が組み合わさって、「米の殻を取って精米する」様子を「康」としたとされています。「精米の道具のように芯がまっすぐ」で「丈夫」の意味が生まれたとする説や、「米がたくさん実った」ことを表し「安心→落ち着いた」と変化し「安らか」の意味になったとする説があります。つまり、「健体康心」からきた「健康」とは「健全な体と安らかな心」、つまり「心身ともに健やかな状態」を表しています。

 1948年の設立における世界保健機関憲章の前文には「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」とあり、1951年官報掲載の日本語訳では「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」とされています。

  それでは、最近よく聞かれる「健康美」というのは何でしょう。これは、溌剌とした健康な体にそなわる美しさを意味しています。人の状態は、病気→未病(2000年前の後漢の時代の中国最古の医学書「黄帝内経」 にはじめて見られる言葉で、日本では貝原益軒が83歳にして著した「養生訓」に登場する「病気ではないが、健康でもない状態」)→健康→美、の順に成り立っているとされます。

  つまり、「美しさ」は健全な心と体の上に成り立つということであり、健康を追求することの延長線上にある食事、運動、睡眠など健康的なライフスタイルを心がけることも重要になります。髪や皮膚、筋肉等の美しさも必要な栄養をバランス良くとり、適度な運動を継続的に行い、良好な睡眠をとり神経を休めることが大事であることになるわけです。「表面的な美」ではなく「本質美」を作り上げるためにも、「美」には「健康」が深く関わっていることをあらためて意識したいものです。

文・浅見豊子 (佐賀大学医学部附属病院リハビリテーション科診療教授)

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