疾患ナビ 2021.03.04

整形外科ドクターが答える!「慢性の腰の痛み」についてのQ&A

国民病とも言われている腰痛。多くの人が「腰が痛い」と思いつつも、我慢して生活を続け、慢性状態になっている人も多いと思います。今回は、そんな慢性腰痛に詳しい福島県立医科大学整形外科教授・矢吹省司先生に教えていただきました。

慢性の腰の痛みは何故起きるのか?

 腰痛は多くの人が抱えている症状です。どんな症状があるかを調べた厚労省の調査では、腰痛は、男性では1位、女性では肩こりに次いで2位の症状です。何故こんなにも多くの人が腰痛を抱えているのでしょうか。現時点でわかっていることを整理してみます。

腰には常に負荷がかかるので傷みやすい」

 腰の骨(腰椎)は背骨の下の方にある5つの骨(椎骨)で成り立っています。骨は椎間板と2つの椎間関節で上下の骨と繋がっています。さらに靭帯が補強し、動かしたり安定化させるために多くの筋肉が骨に付いています。体を曲げる、反らす、捻るといった動き、歩く、走る、荷物を持ち上げるといった動作、これら全て腰への負担になります。一般住民の腰のレントゲン写真を調べると、男性では81%、女性では65%の方に変性・変形(広い意味では加齢変化と捉えても良いと思います)が見られます。MRIで調べると10代の人にも椎間板変性が見られます。全員が痛みを出すわけではないのですが、腰には大きな負担がかかって、若い年代から変性・変形が始まっています。

「慢性の腰の痛み」についてのQ&A

Q 傷んだらもう治せないのか?

A 腰に負担がかかり、それが長年続いて起きてしまった変性・変形を元に戻すことは現時点ではできません。それでは、一旦腰痛が起きたら治らないのかというと、そんなことはありません。腰に起こった変性・変形は、ある意味“生きてきた証し”です。変性・変形を気にしすぎて、腰に負担をかけないようにあまり動かないようにする方がよっぽど良くありません。“痛みの悪循環”といって、痛みが持続してしまうメカニズムの一つに「痛み怖がりすぎ」があると言われています。痛みがあると誰でも心配になりますが、一回検査して悪い病気ではないと診断されたら、怖がらないで動いた方が良いのです。

Q 薬を飲めば良いのか?

A 薬には、痛み止め(抗炎症鎮痛薬)をはじめいろいろあります。急性腰痛(いわゆるギックリ腰)の場合は、抗炎症鎮痛薬が推奨されます。しかし、長引いてしまった場合(慢性腰痛)は、炎症の時期は過ぎたと思われるため、抗炎症鎮痛薬は推奨されません。抗炎症鎮痛薬には、腎機能障害や胃腸障害を引き起こす可能性もあるので、長期の服用には注意が必要です。代わりの薬としては、もともと備わっている痛みを軽減しようとする神経の働き(下行性疼痛抑制系と言います)を強める薬を使います。しかし、薬に頼ってばかりではいけません。薬には良い作用もありますが、副作用もあるからです。

Q 手術が必要なのか?

A 慢性腰痛に対して手術が行われることがあります。通常は、神経痛や運動麻痺といった神経の障害も合併している場合に手術が行われます。他には、明らかに腰椎が不安定で、症状が不安定性のためであると考えられる場合です。腰椎の変性・変形だけが腰痛の原因であると正確に診断することは難しいので、「絶対に良くなります」と自信を持って言えることは多くありません。手術(固定術)を選択するのはじっくり考えてからが良いと思います。

Q 何が一番良いのか?

A 慢性腰痛では、変性・変形に加えて、肉体的ストレスだけでなく精神的ストレスが関与していることが多くあります。家庭や会社で感じるストレスが痛みとなって現れている場合があるのです。痛みを過度に怖がって動かないことも良くありません。これらを考えると、まずは、慢性腰痛を理解することです。そして、ストレスになっていることに対応していかなくてはなりません。臨床心理士さんに教えてもらってやる心理療法は解決策の一つです。これと運動療法です。運動には、下行性疼痛抑制系を元気にする力があります。さらに筋肉を使った運動をすると筋肉からいろいろな良い物質(マイオカインと言います)が放出されます。腰痛の原因が悪いものではないとわかったら、できるだけ体を動かす(運動する)ことが重要です。

運動療法は腰痛にさまざまな効用をもたらします

 

 

 

 

 

 

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